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第347話 ハッピーバレンタイン

今日は、級長とリューガくんとは別々に帰ることにしたから、昇降口でバイバイ。 2人が遠くなるのを待って、俺たちも歩き出した。 ひろたんと中山はHR終了直後、挨拶もそこそこに教室から飛び出していった。 中山は、サッカー部の方針でファンからのチョコは断るなって言われてるから、渡されたら全部受け取らなくちゃいけない。 初めは我慢して笑顔で見守ってたけど、どんどん項垂れていっちゃうひろたんの姿に、流石の中山も気が付いたんだろう。 ひろたんの手を引っ張って、逃げるように帰って行った。 あんまり詳しくは知らないんだけど、年末年始の大会でうちのサッカー部は3位になったらしくて、ストライカートリオの1人、中山にもファンだって言う子が増えたらしい。 応援は力になる!と言う持論を掲げる部長の言い分が分からないでもないけど、だったら部室の前に受付けでも立てて纏めて預かれば良いんじゃないかな……とも思ったけど、女の子からしたらそう云うもんでもないか……。 なんにしろ、恋人持ちには厳しいルールだ。 「リョーちん~…」 教室を出る際、リューガくんに縋るように見られたけど、2人掛かりで引き離されて、バラバラにされた。 2人ともわっるい笑み浮かべちゃって……。 まあ駅までの道は一緒だから、前の方に2人の背中が見えるんだけど、追い越さないよう追いつかないよう、距離を保って歩いた。 途中から2人は道を逸れて。きっと別の道を使って級長の家へ向かったんだろう。 リューガくん、頑張れ!! その不安な思いを醸し出す頼りなさ気な背中に、拳をぎゅっと握ってエールを送った。 家に着くと、お泊りでもないのに斗織はすっかり寛ぎモードで、シャワーを浴びにバスルームに消えていった。 俺はその間にさっと着替えてエプロン装備。フォンダンショコラの用意に取り掛かる。 シャワーだけだしすぐ出てくるから、もう温めちゃっても大丈夫だよね。 コーヒーマシンに豆と水をセットして、フォンダンショコラをレンジにかけてから、生クリームをホイップする。 温めすぎると中に火が入りすぎて固まっちゃうから、温め時間は慎重に。 斗織が着流し──くすんだ渋い茶色の着流しを着こなすとか、この人本当に17歳なんだろうか──で出て来たタイミングで仕上げのココアパウダーをまぶして、あったかフォンダンショコラにホイップクリーム&バニラアイスを添えて…が出来上がった。お洒落にミントなんて乗せちゃってね。 ダイニングテーブルに移して、ブラックコーヒーと一緒にご提供。 「斗織っ! ハッピーバレンタイン!」 見て見て、とばかりに両手を広げれば、ご機嫌だなと失笑された。 「美味そうだな、流石俺の嫁」 斗織の俺の嫁発言はテッパンみたいです。 「美味しいと思います」 「つか、チョコってプレゼントん中に入ってたんじゃねェの?」 そう言うと鞄を開いて、朝一学校で渡したプレゼントを確認する斗織。失礼です。 「俺、勝手に斗織のバッグ漁ったりしないしー」 ぶーっとほっぺを膨らますと、じゃあこれは? と訊ねられる。 「それは後で。アイスとクリーム溶けちゃうよ」 「だな。じゃあ、先にそれ食って、プレゼント開けて、最後にお前食うか」 「………17歳の高校生が口にするセリフでしょうか…」

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