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第360話 未来(あした)の為に、そのいち

【竜臥Side】 家に帰るといつも「お帰りなさい」って声をくれる母親、百合子さんがいない事を、リクトは不思議に思ったらしい。 「母さん?」 灯りの消えた部屋の中に一応の呼び掛けをして、リビングのテーブル、それからダイニングテーブルの上もチェック。 その上に書き置きを見つけると、「Limeで送ればいいのに」 ボソッと呟いた。 実は今、百合子さんは、俺の為に出掛けてくれてる。 うちには基本、母ちゃんと弟妹がいるし、万が一にもじーちゃんにバレンタインのチョコなんて渡してるトコ見られたら人生終わる。 そこに直れ、からの、なんと軟弱な、情けない!性根叩き直してくれるルート。俺的バッドエンドに直結だ。 だから、少しの時間だけ…リクトの家を借りられたらなって、百合子さんに相談してみたんだ。 『なるほど。陸翔に告白するのね。 いいわよ、おばちゃん少し出てくるから、その間にモノにしなさい。竜ちゃんがうちの息子になるなら大歓迎だから』 まさかの返しにひっくり返った。 百合子さんには全部、お見通しだった。 当人の俺だって、ついこないだまでリクトに向かう気持ちに気付いてなかったってのに。 コートを脱ぐと、リクトに渡す。 リクトが背中向けてコートをハンガーに掛けてる間に、こっそりスクバからチョコの箱を取り出した。 『本命っぽくこう言うので行こう!』 『そうだね。りゅーがくんはまだ付き合ってないから、分かりやすい方が効果的!』 キラン☆キラン☆言いながら、リョーちんとひろたんがチョイスしてくれた中から、一番分かり易いと思って選んだ白地に赤のハート模様の包装紙。 何度も包み直してるうちに皺だらけになっちまったけど……。 それに赤いリボン結んで、どっからどう見ても本命仕様丸分かりのバレンタインの贈り物だ。 こんなん見せたら何も言わなくても一目で惚れてることバレっから。 リクトが振り返る前に、口を開く。 「なあリクト、振り返らないで聞いて欲しいんだけどさ」 「なんですか?」 応える声は優しくて、だけど普通にこっち向こうとするから、「あっち向いてろ!」と慌てて諭す。 「俺さ、お前のこと好きなんだわ。で、本命チョコ渡してぇんだけど、一緒に食える?」 「え……?えっ!?」 驚いて声を上げたリクトは、また振り返りかけて今度は自力で踏みとどまった。 「取り敢えずさ、両手広げてみ?」 「………はい」 律儀に言われた通り、背中を向けたまま両手を広げる。 「んで、こっち向いて」 くるりと、リクトがこっちに回るタイミングで勢い良く床を蹴って─── 「受けとめろよっ!」 タックルよろしくその胸に思いっきり飛び付いた。 勉強一筋ひょろメガネかと思いきや、意外とそうでもないリクト。 体育の成績もいいし、実は結構良いカラダしてやがる。 だから、俺1人ぐらい受け止められるって、そう思って飛び込んだんだ。 背中に腕を回して、ギュッと抱き着く。 リクトは抱き留めたままの形で固まってて、……ちょっと何考えてんのか分かんねぇ。 確かこの後は……… 腕の力を緩めて、いくらか体を離してリクトを見上げる。 少し上目遣いにして、手は相手の体から離さぬ気概で。 「……だからお前も俺のこと……、好きになれよ」 相手を悩殺するセリフを打ち込むべし!

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