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第363話 宝物

【陸翔Side】 メッセージカードの下に、もう2枚紙が入っていた。 1枚目は薄いメモ帳で、 『お皿に乗せて、レンジでチン♪』 2個ずつと4個ずつ温める各々の秒数と、筆跡の違う『がんばれ!』が2つ並んでいた。 紫藤君と高山君の書いたものであろうことは明らかで、受けの子3人の仲の良さに腐男子の血が密かに騒いだ。 恐らくこれは、ここに入っているべきものでは無かったんだろう。 どう返すか……考えながら紙を捲って、その下から姿を表した小悪魔に…… 「っ─────!!」 心と呼吸を奪われた。 「ん?…あ、それなぁ。俺、可愛いだろー?」 赤いエプロンに、悪魔の角。 照れたように笑うその頬は桜色に色付き、その風貌を幼く見せる理由の一つである大きな目は更に黒目がちに、顔の数割を占めている。 赤く染まる唇からはちいさく牙が覗き…… こんな悪魔になら咬まれてもいい…等と可笑しな思いが胸に湧き上がる。 「……可愛いです…」 ホゥ……と熱い吐息が漏れた。 「あんなー?そこはもっと笑い飛ばしたっていいトコだからなっ」 そう言いつつも照れているのか、恐らくカメラアプリで弄られた写真のように、本人の頬も赤く染まる。 「いえ、本当に可愛いです。まあ、目の前の竜臥の方が より可愛いですが」 「ッ!?───リクトは……アレだなッ。恥ずかしいとか、ねーんだな!?」 「ありますよ。けれど、照れて言い逃しては勿体無い事もあるでしょう?」 「う~ん………、ま、そーだな!」 にぱっと笑う無邪気なこの人が、今日から自分の恋人だなんて……… 勝手に顔が緩んでしまう。 こんなだらし無い顔を見せて幻滅されたら、などと心配する必要は暫く無さそうで、「早くチョコも見ろよーっ」と急かす竜臥に安心して頷いて、笑い返した。 蓋を取ると中には背の低い円柱のチョコレートケーキが4個。 「それな、レンチンすると中のチョコがトロってすんだぜ」 「フォンダンショコラですか?」 「あ、うん。それそれ!えっとー、確か600Wでー…」 そっと隠したメモ紙。きっと今、これが必要なんだろう。 本当は憶えたつもりだったのだろうが、告白の緊張を考えれば、飛んでしまったことも頷ける。 「………竜臥」 その手にメモ紙をそっと握らせた。 二人分の「頑張れ」の詰まったその紙を。 「それ、宝物でしょう?」 「え……?あっ!こっ、これは…!つかなんでリクトが持って…!?」 「もう無くしてはいけませんよ」 「あ…、うんっ!取り敢えずあっためてくんな!」 ガッと乱暴に箱を掴むと、転がるように走り出す竜臥。 その向こうに、コーヒーを淹れ終えた母さんがダイニングチェアに腰を据え、ニヤニヤとこちらを眺めている姿が見えた。 それに気付くと竜臥は、「百合子さんっっ!?」と10cm程ビクッと跳ね上がって、「見てたんですか…!?」の問い掛けに頷いた母さんの前で見事に床に崩れ落ちた。 ……にしても、我が親ながら食えない人だ。 息子とその友達、それぞれの想いに、いつから気付いていたのやら……。

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