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第371話 誰の為に
ちらし鮨に、筑前煮、きんぴらごぼう、カレイの煮付け、豚しゃぶの蒸し野菜サラダ、手鞠麸のお吸い物、箸休めにもずく酢。デザートには、こし餡で作った簡単羊羹。
それに、お姉ちゃんリクエストの甘い玉子焼き。
どうだ!!
これ全部、俺1人で作ったんだよ!?
母さんもお姉ちゃんも全然手伝ってくれなくて!
食材だけはびっくりするくらい色々揃ってたけど…。
それと、何を作るか聞かれて、それに合う食器だけは用意してくれた。
兎に角、一般の男子高校生でこんなこと出来るの、クラスに1人…いや、学年に1人の割合でしか居ないと思う!
俺、頑張った!!
「遼ちゃん、お疲れ様~。運ぶの手伝うね。わっ、綺麗~!」
「あら、聖一郎には聞いてたけど、ほんと大したもんじゃない、遼司」
「……もっと褒めてくんなきゃ死んじゃう…」
「よっ、遼ちゃん!流石父さんの嫁!」
「流石私の息子。良くやった!」
「………褒められてる気がしない」
俺は父さんの嫁じゃなくて斗織のものだし、母さんに至っては料理できるかも怪しいから大却下だ。
昔は確かに……ご飯作ってくれてたかもだけど…。
「……これ、おかず全部冷凍して、毎日遼ちゃんのご飯をちょっとずつ頂いてくってのはどうだろう」
「沙綾、遼司が誰の為に作ったのか忘れたの?」
「あっ、そうでした!」
その『誰の為に』っての、俺は聞いてないけどね。
「母さん、飲み物はどうしよう?」
「ああ、それはお客様がいらしてからでいいわよ。食前酒も用意したし…」
話の途中でチャイムが鳴ると、母さんはお姉ちゃんに応対を振った。
「遼司はサイダーとオレンジジュースとどっちがいい?」
「うんとねぇ、オレンジじぅす~」
テーブルコーデの仕上げは母さんの仕事らしい。
来客用に広げられた上等なテーブルの上に広げられたクロスは落ち着いた緑色。
淡くマーブルに光る白い珠のような丸い花瓶に生けられた桃の花を2つ飾る。
白と薄桃色、二種類のナプキンは蓮花の形に畳んで。
それぞれの席に、取皿とグラス、箸と箸置きを置いていく。
全部で8人分。5人のお客さんが見えるみたいだ。
箸置きだけは各々違う物だけど、バラバラって風には見えなくて、違う物なのに統一感…って言うか。
上手く言えないけど、やっぱり母さん、プロのデザイナーなんだな…って。
母親としてはガサツで大雑把で結構いい加減な人だけど、仕事なら繊細でも居られるんだ…って。
だって、俺の作った地味な家庭料理が、お店の物みたいにオシャレに見える。
味はまあ、普通のまま変わんないんだけど……
───そうだ!
普通なんだよ!?とびきり美味しい訳じゃない!
プロの作った特別なものじゃない。
普通の男子高校生の作った、料理歴6年の子供の作った料理だよ!?
こんなコーデされたら、味にも過度な期待抱かせちゃうじゃん!
「母さん!今からでも遅くない!鍋のまま出そう!!」
「何言ってんの、この子は。お迎えに行くからエプロン外しなさいよ」
「いやだ~~っ」
「遼司、ほら、背中のリボン解いてあげるから」
ピンポーン
「はいはーい」
「やだぁっ」
「往生際の悪い!」
「母さん、お客様がお見えですよー」
「はーい!もう、そのままでいいからいらっしゃい」
母さんに引き摺られるようにして部屋を出た。
廊下をペタペタ…俯いて歩く。
往生際悪くてもしょうがない。
だって、母さんがやり過ぎなのが悪い!
やり過ぎキライ!!
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