371 / 418

第371話 誰の為に

ちらし鮨に、筑前煮、きんぴらごぼう、カレイの煮付け、豚しゃぶの蒸し野菜サラダ、手鞠麸のお吸い物、箸休めにもずく酢。デザートには、こし餡で作った簡単羊羹。 それに、お姉ちゃんリクエストの甘い玉子焼き。 どうだ!! これ全部、俺1人で作ったんだよ!? 母さんもお姉ちゃんも全然手伝ってくれなくて! 食材だけはびっくりするくらい色々揃ってたけど…。 それと、何を作るか聞かれて、それに合う食器だけは用意してくれた。 兎に角、一般の男子高校生でこんなこと出来るの、クラスに1人…いや、学年に1人の割合でしか居ないと思う! 俺、頑張った!! 「遼ちゃん、お疲れ様~。運ぶの手伝うね。わっ、綺麗~!」 「あら、聖一郎には聞いてたけど、ほんと大したもんじゃない、遼司」 「……もっと褒めてくんなきゃ死んじゃう…」 「よっ、遼ちゃん!流石父さんの嫁!」 「流石私の息子。良くやった!」 「………褒められてる気がしない」 俺は父さんの嫁じゃなくて斗織のものだし、母さんに至っては料理できるかも怪しいから大却下だ。 昔は確かに……ご飯作ってくれてたかもだけど…。 「……これ、おかず全部冷凍して、毎日遼ちゃんのご飯をちょっとずつ頂いてくってのはどうだろう」 「沙綾、遼司が誰の為に作ったのか忘れたの?」 「あっ、そうでした!」 その『誰の為に』っての、俺は聞いてないけどね。 「母さん、飲み物はどうしよう?」 「ああ、それはお客様がいらしてからでいいわよ。食前酒も用意したし…」 話の途中でチャイムが鳴ると、母さんはお姉ちゃんに応対を振った。 「遼司はサイダーとオレンジジュースとどっちがいい?」 「うんとねぇ、オレンジじぅす~」 テーブルコーデの仕上げは母さんの仕事らしい。 来客用に広げられた上等なテーブルの上に広げられたクロスは落ち着いた緑色。 淡くマーブルに光る白い珠のような丸い花瓶に生けられた桃の花を2つ飾る。 白と薄桃色、二種類のナプキンは蓮花の形に畳んで。 それぞれの席に、取皿とグラス、箸と箸置きを置いていく。 全部で8人分。5人のお客さんが見えるみたいだ。 箸置きだけは各々違う物だけど、バラバラって風には見えなくて、違う物なのに統一感…って言うか。 上手く言えないけど、やっぱり母さん、プロのデザイナーなんだな…って。 母親としてはガサツで大雑把で結構いい加減な人だけど、仕事なら繊細でも居られるんだ…って。 だって、俺の作った地味な家庭料理が、お店の物みたいにオシャレに見える。 味はまあ、普通のまま変わんないんだけど…… ───そうだ! 普通なんだよ!?とびきり美味しい訳じゃない! プロの作った特別なものじゃない。 普通の男子高校生の作った、料理歴6年の子供の作った料理だよ!? こんなコーデされたら、味にも過度な期待抱かせちゃうじゃん! 「母さん!今からでも遅くない!鍋のまま出そう!!」 「何言ってんの、この子は。お迎えに行くからエプロン外しなさいよ」 「いやだ~~っ」 「遼司、ほら、背中のリボン解いてあげるから」 ピンポーン 「はいはーい」 「やだぁっ」 「往生際の悪い!」 「母さん、お客様がお見えですよー」 「はーい!もう、そのままでいいからいらっしゃい」 母さんに引き摺られるようにして部屋を出た。 廊下をペタペタ…俯いて歩く。 往生際悪くてもしょうがない。 だって、母さんがやり過ぎなのが悪い! やり過ぎキライ!!

ともだちにシェアしよう!