372 / 418
第372話 お客様の正体は……
「ただいま。…遼司はどうしたの?」
玄関先から聞こえたのは、父さんの声だった。
じゃあ、お客様って父さんの会社関係の人?
そう考えて、挨拶しなきゃって顔を上げて、
「ふぇっ……?」
おかしな声が出ちゃった……そのまま体が固まる。
「こんばんは。本日はお招き頂き有難うございます」
父さんがドアを開くその向こうで頭を下げてるイケメン好青年………
俺のカレシに見えるんだけど…!!
「こんばんは、斗織君。奥へどうぞ」
斗織に“君”付けてたのなんて会って初めの数分間だけだったくせに、余所行きの笑顔で母さんが招き入れる。
「お邪魔します」
そして、すれ違い様に俺の頭を軽く撫でた斗織が退いた途端に見えたのは、
一度だけ遠目に拝んだことのある、長身で芯の強そうな印象の和服美人。
───斗織のお母さんだ……!!!
えっ、えっ?なんで!?
なんで斗織のお母さんがうちの母さんの家に?!
「こっ…こんばんはっ!はじめましてっっ!とっおるくんと仲良くさせて頂いてますっ紫藤りょうずぃでぷっ!っ……!!」
ああぁぁっ、噛んだあぁ!盛大に噛んだ…!!
自分の名前間違えた上に、でぷってなんだよ!破裂音付ければ可愛いと思ってんのか俺ぇっ!!
「こんばんは、斗織の母です。遼司さんね。お噂は伺っておりますよ」
羽崎母はその端麗なかんばせに、ニコリと余所行きの微笑を浮かべる。
きっとそれは作られた笑顔。だから、それが好意的な意味を持つのか、それとも含みのあるものなのか…全然わからない。
噂ってどんな!?
アンタの噂は嫌でも耳に入ってくんのよ豚ヤロウ。
可愛い斗織を誑かしやがってこの盛りのついた雌猫が!
ってことじゃないよねぇ!?
なに先に部屋行っちゃってんの!?助けて斗織!!
「ああ、なるほど。君が遼司君か。確かに可愛いね、沙綾先生?」
斗織のお母さんの後ろには、初めて見る50代くらいの男の人。
やっぱり背が高くて、ダンディな男前で、だけど優しそうな雰囲気の人だ。
斗織の一番上のお兄さん、一也さんがおじ様になったみたいな。
もしかして斗織のお父さん…?
「ええ。うちの遼司は世界一可愛いんです」
「えっ、ちょっ、お姉ちゃんっ!」
「あ、遼ちゃ~ん。こちら、斗織君のお父様の羽崎外科部長先生」
「はぅっい!はじめましてっ、お父様っ」
「!……可愛い子にお父様って呼ばれるのもいいもんだねぇ」
「…はっ!失礼しましたっ!!」
何やってんの!?何やってんだよ俺~~っっ!!
突然の遭遇とは言え、テンパり過ぎだっての!!
「あの…っ、こんな玄関先ではなんなので、…あの、奥へどうぞ、ぜひっ」
「ええ、お邪魔致しますね」
「失礼します、紫藤さん」
「ええ、どうぞお上がり下さい」
斗織のお父さんとお母さんが部屋に入っていくのを見送って、床にへにゃりと崩れ落ちた。
「母さんのばか……」
こんないきなり、心臓に悪いっての。
どういうことなのコレ?なんで斗織のご両親が来るの?
「大丈夫?」
聞こえた声と頭に触れた手が父さんのものではなくて、ビクッと肩が揺れる。
だけど、初めて聞く声じゃない。
だれ……?
顔をそっと上げて……
「一也お兄さん……」
「こんばんは」
ふんわりと優しい笑顔に脱力した。
一也お兄さんもお医者さんなんだよね。
もしかして、小児科医なのかな?
子供たちも、お兄さんの笑顔見たら、注射が恐いのも忘れてほわんってしちゃいそう。
「こんばんは、一也お兄さん」
「立てるかな?」
「はい」
「遼司、抱っこで連れて行こうか?」
「父さんっ!」
俺、立てるって言ってるのに、父さんってばからかって…もう!
「遼司君」
ほら、一也お兄さんにクスクス笑われてんじゃん!
「エプロン、可愛いね」
「っ───!!!」
忘れてた!
俺、フリル多めの純白エプロン着けさせられてたんだ……!!
恥ずかしっ………
ともだちにシェアしよう!