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第372話 お客様の正体は……

「ただいま。…遼司はどうしたの?」 玄関先から聞こえたのは、父さんの声だった。 じゃあ、お客様って父さんの会社関係の人? そう考えて、挨拶しなきゃって顔を上げて、 「ふぇっ……?」 おかしな声が出ちゃった……そのまま体が固まる。 「こんばんは。本日はお招き頂き有難うございます」 父さんがドアを開くその向こうで頭を下げてるイケメン好青年……… 俺のカレシに見えるんだけど…!! 「こんばんは、斗織君。奥へどうぞ」 斗織に“君”付けてたのなんて会って初めの数分間だけだったくせに、余所行きの笑顔で母さんが招き入れる。 「お邪魔します」 そして、すれ違い様に俺の頭を軽く撫でた斗織が退いた途端に見えたのは、 一度だけ遠目に拝んだことのある、長身で芯の強そうな印象の和服美人。 ───斗織のお母さんだ……!!! えっ、えっ?なんで!? なんで斗織のお母さんがうちの母さんの家に?! 「こっ…こんばんはっ!はじめましてっっ!とっおるくんと仲良くさせて頂いてますっ紫藤りょうずぃでぷっ!っ……!!」 ああぁぁっ、噛んだあぁ!盛大に噛んだ…!! 自分の名前間違えた上に、でぷってなんだよ!破裂音付ければ可愛いと思ってんのか俺ぇっ!! 「こんばんは、斗織の母です。遼司さんね。お噂は伺っておりますよ」 羽崎母はその端麗なかんばせに、ニコリと余所行きの微笑を浮かべる。 きっとそれは作られた笑顔。だから、それが好意的な意味を持つのか、それとも含みのあるものなのか…全然わからない。 噂ってどんな!? アンタの噂は嫌でも耳に入ってくんのよ豚ヤロウ。 可愛い斗織を誑かしやがってこの盛りのついた雌猫が! ってことじゃないよねぇ!? なに先に部屋行っちゃってんの!?助けて斗織!! 「ああ、なるほど。君が遼司君か。確かに可愛いね、沙綾先生?」 斗織のお母さんの後ろには、初めて見る50代くらいの男の人。 やっぱり背が高くて、ダンディな男前で、だけど優しそうな雰囲気の人だ。 斗織の一番上のお兄さん、一也さんがおじ様になったみたいな。 もしかして斗織のお父さん…? 「ええ。うちの遼司は世界一可愛いんです」 「えっ、ちょっ、お姉ちゃんっ!」 「あ、遼ちゃ~ん。こちら、斗織君のお父様の羽崎外科部長先生」 「はぅっい!はじめましてっ、お父様っ」 「!……可愛い子にお父様って呼ばれるのもいいもんだねぇ」 「…はっ!失礼しましたっ!!」 何やってんの!?何やってんだよ俺~~っっ!! 突然の遭遇とは言え、テンパり過ぎだっての!! 「あの…っ、こんな玄関先ではなんなので、…あの、奥へどうぞ、ぜひっ」 「ええ、お邪魔致しますね」 「失礼します、紫藤さん」 「ええ、どうぞお上がり下さい」 斗織のお父さんとお母さんが部屋に入っていくのを見送って、床にへにゃりと崩れ落ちた。 「母さんのばか……」 こんないきなり、心臓に悪いっての。 どういうことなのコレ?なんで斗織のご両親が来るの? 「大丈夫?」 聞こえた声と頭に触れた手が父さんのものではなくて、ビクッと肩が揺れる。 だけど、初めて聞く声じゃない。 だれ……? 顔をそっと上げて…… 「一也お兄さん……」 「こんばんは」 ふんわりと優しい笑顔に脱力した。 一也お兄さんもお医者さんなんだよね。 もしかして、小児科医なのかな? 子供たちも、お兄さんの笑顔見たら、注射が恐いのも忘れてほわんってしちゃいそう。 「こんばんは、一也お兄さん」 「立てるかな?」 「はい」 「遼司、抱っこで連れて行こうか?」 「父さんっ!」 俺、立てるって言ってるのに、父さんってばからかって…もう! 「遼司君」 ほら、一也お兄さんにクスクス笑われてんじゃん! 「エプロン、可愛いね」 「っ───!!!」 忘れてた! 俺、フリル多めの純白エプロン着けさせられてたんだ……!! 恥ずかしっ………

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