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第375話 言葉の意味
「ええ。4月にまた転勤で、転校させてしまうのですが、来年には戻る予定で」
「1年間と言え、離れ離れになってしまうんですのね」
「それは寂しいですねぇ」
歓談中の大人組が座るソファーの傍に移動して、斗織と並んでクッションに腰を下ろす。
当然、もう手は繋いでない。
斗織は今日は、和装じゃなくて洋装だ。
だけど余所行き仕様で、白シャツに黒のジャケットが大人っぽくて格好良い。
くっつきたいけど、がまんがまん。
「遼司さんは、大学には進学されるの?」
急に斗織のお母さんに話を振られて、思わず跳ね上がった。
「遼司君、大丈夫だよ」
斗織とは逆の隣からそう囁かれて、背中をトントンと擦られる。
……一也お兄さんにくすくす笑われちゃった。
だめだめ、俺、ビクビクしすぎだ。
気合を入れて、斗織のお母さんと向かい合う。
「はい。こちらの大学に進学したいと思っています」
「遼司さんは、成績が学年でも2番目なんでしょう?征二にもお勉強を教えて下さってると聞きましたよ。そんな優秀な方とお付き合いさせて頂けて、斗織も…」
「お付き合い…っ?!」
「あら?斗織からは良くお宅にお邪魔させて頂いたり、今一番親しくお付き合いさせて頂いてるクラスメイトだと聞いたけれど…、違うの?」
「いえっ!違いませんっ」
びっくりした!もう……声ひっくり返っちゃったよぅ…。
変に思われなかったかな……?
内情を知ってる皆は微笑ましげに笑ってるし、斗織は噴き出しながら俺の頭ポンポンするし……
「2学期末と学年末の成績が上がったのも遼のお陰だしな」
「それは、斗織が嫌がらずにちゃんと勉強したからでしょ」
「お前と一緒じゃなきゃそこまで真剣にやんなかったろうし、分かんねェトコ丁寧に教えてくれたのもお前だから」
「そう…なら…嬉しいけど……」
さっきよりも優しく頭をナデナデされて、顔が勝手に熱くなっちゃう。
変な風に思われないかなって気が気じゃないのに、斗織は全然気にしてないみたいに俺の目を見て甘く微笑む。
俺たちを凝視するお姉ちゃんの鼻の穴がヒクヒクしてるから、きっと腐女子の血を騒がせてるんだろうなって思うと、落ち着かない。
「って訳で遼、両親にはもう相談済みなんだけどさ。…俺、お前と同じ大学を目指そうと思う」
「えっ!?俺、目指せる最高の偏差値の大学受けるつもりだよ!?」
「ああ、分かってる」
思わず勢い良く返してしまった俺に、斗織は苦笑い。
……ご両親の前で、失礼な言い方しちゃったかもしれない。
「ごめん。あの、でも…」
「目標は高い方が頑張れるだろ?それに、目的に対する気持ちが強ければ、折れずに前に進める」
「……うん。そうだね」
……なんてことだ…!
俺のカレシが…かっこ良すぎる!!
「だから、離れてる間も連絡するから、勉強教えろよ」
「───はいっ!お任せ下さい!」
『目的に対する気持ちが強ければ』ってさ、つまり、俺と共に大学生活送りたいって想いは何よりも最強なんだぜ!って事でしょ!
もうさ、この人ってば、親たちの前で何言っちゃってんだよ~。
それって、俺のことが何より大切って聞こえちゃわない? 下手したら、俺たちの関係がバレちゃうじゃ〜ん。
「もーっ」
胸をポスポスと叩くと、斗織は俺の手を掴まえて「なんだよ?」と首を傾げた。
「───!?」
まさか、自分の発言の意味に気付いていない…だと!?
俺への想いが本人無意識のうちに言葉と態度に溢れでちゃった、とか!?
も~、斗織ってばホント俺のこと好きなんだから~。
嬉し過ぎて花飛ばしちゃうぞ~。
「オイ、遼…?」
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