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第378話 母と息子

余り遅くなるとご迷惑ですからそろそろ…と斗織のお母さんが切り出して、解散の流れとなった。 3月中にもご招待致しますので我が家にもいらして下さいね、とは、ただの社交辞令じゃないと思う。 だって、何度も俺に、いつでも遊びにいらしてねって言ってくれたから。 普段は茶室にいるから、次に来た時には顔を見せてって、教えてくれたから。 お酒が入ってご機嫌だから、そう言ってくれたのかも知れないけど。 斗織のお父さんとお母さん、それに一也お兄さんを乗せて、第一便は新宿へ向かって走っていった。 金曜日の夜だから泊まっていきたいって斗織が言えば、斗織のお母さんは渋い顔をしたけど、お父さんは快く許してくれて。 くれぐれもご迷惑をお掛けしないようにって繰り返して、お母さんも頷いてくれた。 5人乗りのセダンに6人は纏めて乗れないから、羽崎一家を送り届けてから、父さんが戻ってきてくれるのを待ってる。 残ったのはこの部屋の住人、母さんとお姉ちゃんと、それから俺たち。 2人の目の前だっていうのに、斗織が俺を抱き寄せるから、俺は斗織の膝に座らざるを得ない。(嬉しいけど) それを見てニヤリとした母さんは、ソファーに座ってお姉ちゃんに空のグラスを振って見せて、赤ワインを注がせる。 まだ飲むつもりだ、この人。 「遼司、びっくりした?」 「したに決まってるだろ、もう」 「斗織は何処で気付いたの?」 「聖一郎さんが迎えに来てくださった時です」 「それまで何処に行くのか、想像もしてなかったってことね」 にまにま笑ってご満悦。 「素直に感謝したい気もするんだけどさ…」 「じゃあしなさいよ」 「なんで教えてくんなかったの?って腹立たしさもちょっと感じる」 拗ねたように伝えると、母さんはあっけらかんと、 「だって遼司、斗織のご両親がいらっしゃるなんて聞いたら、緊張して普段通りの料理なんて出来なくなりそうじゃない」 正論を言ってのけた。 けど、さ。 それも本当なんだろうけど…… 「それに、お2人がいらした時の驚きようがさ、もうっ!遼司、あんた引っくり返りそうだったわよ!反応想像通り過ぎて面白いったら…!」 だろうね! そっちがメインだったんだろうね、母さんには! そっちでプククッてなってるお姉ちゃんも! 「……でも、ありがとう。俺の為に…」 目を見て伝えるのは恥ずかしくて、言葉を発するのと同じタイミングで、頭を下げた。 「……うん」 頭上に影が掛かって─── 撫でられる……のかと思いきや、つむじをグリッと押される。 「なんで!?」 「遠いのよ。ちょっと斗織、遼司解放して」 手首を掴んで引き寄せられて─── 「っ…わぷっ」 斗織とは異なる、柔らかい腕の中に抱き込まれた。 俺より小さいくせに、パワフルな母さん。 ……ああ、そう言えば、母さんに抱き締められるのなんて、離婚した小5以来だ。 ちょっとお酒臭い。 だけど、優しい……母親の匂いがする……… 高2にもなって、恥ずかしいけど…… あの頃よりもずっと小さく感じる背中に手をぎゅっと回して、肩口に顔を押し付けた。 「……ありがと」 「うん……」 母さんの腕に、力が篭った。 そして俺たちは、どのタイミングで離れれば良いのか…わからなくなってそのまま固まっていたのだけど…… 「そろそろ返して下さい」 斗織にグイッて腰を抱き寄せられて、膝の上に戻された。 「……ヤキモチ?」 「うっせ」 「かわいい」 「るせェ」 俺のカレシは、俺の母親にすらヤキモチを焼いちゃう独占欲の強いイケメンです。

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