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第394話 首謀者

そこでおとなしく待ってろ、と言う殿の命により座布団の上で正座をして着替えを待っていると、 「斗織、帰ってる?」 襖の向こうから男の人の声がした。 「ああ、ただいま」 この柔らかい声音と、返す斗織の口調から察するに、相手は一也お兄さんだろう。 「おかえり。開けても平気?」 「どうぞ」 「おっじゃまっしま~す!」 だけど、こちらは予想外だった。 一也お兄さんと一緒に、…寧ろ率先して、襖を開いて部屋に入ってきたマナちゃん先生の存在は。 「いよっ!リョー君、久しぶり」 「あっ…、はい。こんばんは、先生。一也お兄さん、お邪魔してます」 「こんばんは、遼司君。いらっしゃい」 ふんわり笑顔の一也お兄さんと俺のやり取りに、マナちゃん先生はハッとしたように斗織のいる方へと向き直る。 「あ、そっか。斗織、俺もお邪魔してまーす」 「おう、いらっしゃい。つか、マナちゃんと一也兄さんはこれからデ…出掛けんの?」 多分、口から出掛けたデートって言葉を引っ込めた斗織は、2人のことを恋人同士だって認めるのがまだ、恥ずかしいのかな。 自分にとっては、ちいさな頃から大好きなお兄ちゃんたちだから。 「んーや、色々あんのよ、大人にも」 「あっそ」 「んなことよりさ、リョー君っ」 「はい」 笑顔のマナちゃん先生が、耳元にそっと口を近付けてくる。 「斗織からのホワイトデーのお返し、どうだった?」 「えっ?…あぁ、マカロン貰いましたよ」 『特別』って意味のお返しを思い出して、顔がによによしちゃう。 「いやいや、じゃなくて。斗織型バイブ」 「っ───!!!」 俺を数段飛び越すによによ顔のマナちゃん先生の囁きに、そう言えばそうだった…!! と思い出した。 斗織に変なお返し吹き込んで、あまつさえ代理購入まで仕出かした犯人───他ならぬこの人だった!!! 「ちょっ!先生! 斗織になんてもん買わせてるんですか!!」 「え?そんなに気に入った?」 「俺の反応の何処を見れば…!?」 「あっはっは~、リョー君ウケる~」 「ウケません! 困惑してます!」 「えー? 俺なら欲しいけどなぁ」 一也さんのお・ち・ん・ぽ♡ と、大変色っぽく俺だけに聞こえる音量で囁いたマナちゃん先生は、俺の傍からスッと身を引くと一也さんの腕にぎゅっと抱き着く。 俺を見て小首を傾げてニコッて……、 仕草は可愛いけど、言ってることは全然可愛くないですからね!先生!! 「……遼、まさかアレ、気に入ってなかったのか……?」 ああっ、こっちも余計なことに反応しちゃったよメンドクサイ!! 「嬉しかったけど、恥ずかしいから……」 照れたフリして顔を俯けると、斗織は「そうか」って頭をよしよししてくれた。 遼ちゃん、最近とっても演技派。 「でもアレさ、結構苦労したんだよぉ。斗織が結構ギリに相談してきたからさ」 「…そうなんですか…?」 なら、それ薦めてくれなくてよかったのに!! 「でも、僕が良く行くバーの常連さんにそこの会社の人が居てさ、リンナさんって人」 リンナ印のリンナさんだ…!! 「で、特別に飲み友達待遇で超速で仕上げてもらっちゃった」 笑顔でVサインのマナちゃん先生。 ここはお礼を言うのが正解だって、俺だって分かるよ。分かる………けどさあ! 「そうなのか。サンキュ、な」 「いやいや、斗織とリョー君の為なら、お兄さんちょっとくらいの無茶は通しちゃうよ」 …………貰ったものはともかく、さ…… 斗織の本当に嬉しそうな顔と、マナちゃん先生の優しい想いを感じちゃったら─── 「ありがとうございます」 ───感謝しない選択肢なんか、俺の中には欠片も無くなる。 「ううん。喜んでもらえて嬉しい」 微笑むマナちゃん先生は、本当に女神様みたいに優しい笑顔で…… 「寿也くん、遼司君に何を買ってあげたの?」 「ん~?一也さんが僕に買ってくれるって言うなら教えてあ・げ・る♡」 だけど一也お兄さんを見上げたその顔は、ただのエロいお兄さんだった。

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