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第396話 暴かれた秘密

「失礼します、斗織です」 ズラリと繋がる襖のこちら側、正座する斗織の隣に倣って座った。 斗織が広間と教えてくれた中からは談笑する声が漏れ聞こえ、室内に少なくはない数の人が居ることを思わせる。 斗織の声に、「入りなさい」と返したのは斗織のお父さんだろうか。 斗織の向こう側に並んだ一也お兄さんとマナちゃん先生も、食事の席にお呼ばれしたんだろうか…… 斗織が襖を引くと、聞こえていた全ての声が止んだ。 中の視線が一斉に、斗織へ、俺へと集中する。 「───とーゅおにぃたっ」 やがて、静寂を切り裂くように発された、子供の声。 斗織を呼んだ真衣ちゃんはお母さんの芽衣さんによって捕らえられ、 だけど真衣ちゃんは暴れることもなく、芽衣さんの膝に収まった。 代わりに場に響いたのは、斗織のお母さんの凛とした通る声。 「斗織、遼司さん。貴方達2人で、わたくし達に隠していることがありますね」 ドクン───と、心臓が音を立てた。 隠していること……… そんなの、ひとつしかない。 だけど、たった一つきりだけれど、何よりも大きな秘密。 ───気付かれた……? 俺達の距離の近さを不審に思われたのかもしれない。 何処からか漏れたのかもしれない。 どうしよう………どうしよう…… 心臓があり得ないくらいにドクドクと暴れ出す。 息が上手く出来なくて、胸の辺りをぎゅっと掴んだ。 「ぁ……、っ」 喉が詰まったかのように、声が掠れて音が外に出ない。 だけど、ダメで………そんなんじゃ、ダメで………… 今、斗織のことを守れるのは俺だけ……で、だから─── 「っ───ごめんなさいッ!俺がはじめに声を掛けたんです!キッカケは俺の方です!斗織は悪くないんです!ごめんなさいっ!!」 冷たい床に両手を突いて、思い切り頭を下げた。 自分でも驚くくらい、大きな声が出た。 膝からエプロンが落ちたことになんて、気付かなかった。 「遼…………、大丈夫だ」 ふと傍らから手を重ねられた。 斗織の放つ空気が変わり、覚悟を決めた真っ直ぐな声が、俺の心臓の早鐘を弛めてくれる。 「俺に任せられるな」 「うん」 そうして繋がれた手に震えを抑えてもらって、改めて気付く、自分の恰好。 両手を床について、お尻を高々と上げていた不恰好な土下座に………、恥ずかしくなってそっと腰を下ろした。 赤くなった顔を徐ろに上げる。 室内の様子に、徐々に状況が判断出来てきた。 俺達に向け声を発した斗織のお母さんばかりに目が行っていたけれど。 いや、それも聡いあの人の策略か。 「母上が疑っておられる通り、私と遼は恋人として交際しています」 斗織は本当に真剣に、2人の関係をお母さんに話してくれてるんだ。 だから俺はそれを神妙な面持ちで見守っていなくちゃいけなくて……… けど───けどさあ……! 斗織のお母さんの視界の外で、声も出さずに笑い転げてる人!!! それから、口元に手をやって肩を震わせてる人! その隣には、『遼司、大丈夫だよ』と優しい眼差しで語りかけてくる父さん。 大和お兄ちゃんも芽衣さんも、斗織のお父さんまで、………ビックリしてるのは子供たちだけで、大人は皆が皆、すっごい優しい目で俺たちを見てるんだもん。 斗織のお母さんの迫力だって、これは演技なんだって───流石に気づいちゃうよ、俺だって。 斗織はまだ、お母さんしか見えてないみたいだけど。 斗織を跨いで一也お兄さんとマナちゃん先輩だって、さ……。 手首をくるりと回して、緊張で少し汗ばんだ恋人の手を握り返した。 俺たち、周りの人たちに恵まれてるんだね………。 みんな、やさしい。

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