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第398話 拒絶の言葉

「───許しません」 てっきりもう認められたものと思い込んでいたから、突然の拒絶の言葉に……… 「そう簡単に許されると思いましたか?」 声が……出なくて……… 「っ───認めてもらえるまで諦めません!」 まるで………追い縋る斗織の声でさえ……違う世界の───演劇でも見ているかのように、泡沫のようで、現実に起こってる事には思えなくて……………… 足元の床が、パラパラと崩れて…………墜ちていく───── 視界の先の空虚に、ポタリと雫が溢れた。 見る間にそれはじわりと輪郭を失い、滲みながら範囲を広げてく。 ぽたり、ぱたりと小さく音がする度、広がっていく小さな水溜まり。 「遼……?」 労るように呼ばれた名前と、肩に置かれた手の感触。 そろそろと顔を上げれば、そこにはプールの中にいるかのように、水の膜の向こうで揺れる斗織が居て……… 「っ───大丈夫だ」 「っ!?」 背中に回された腕の力で勢い良く引き寄せられた。 「ぜってー諦めねェっつったろ? 俺を信じろ」 「!……っ」 しゃくりあげそうになって、必死に堪えた。 力強い腕の中で、何度も頷いてみせる。 信じてる……信じてるよ、斗織。 だけどやっぱり……斗織のお母さんから反対されるのは、辛いよ。 だって、俺の家族は斗織のことを受け入れてる。斗織が素敵な人だから。 じゃあ、受け入れられない俺は……? 俺がダメだから許されないのに、斗織にばっかり負担かけちゃってる情けなさ……… こんな俺じゃ、認められる訳もない。 俺は………斗織に……相応しくない………? 嫌われてないなんて、ただの思い上がりだった。 「───おれっ! もっと頑張ります! 斗織に相応しいって認めてもらえるように、勉強も家事も、もっと、もっと!」 シン───と、場は静まり返ったままで。 そんなことぐらいじゃ認めてもらえないかも知れない。 だけど、それ以上の言葉を持たない俺は、斗織のお母さんの言葉を待って、頭を下げ続けるしか出来ない。 親の庇護下にいる俺は、今はまだすべてを斗織だけに捧げる訳にはいかない。 今、頑張れる事と言えば、そのぐらいしか無いから。 「……遼司。遼司はもう充分やってくれてる。そんなに思い詰めなくていいよ」 沈黙を破ったのは、労るような父さんの声だった。 「っ──でも! 俺がもっとちゃんとしてれば…っ!」 「……遼司君はこう言ってくれているけど、斗織はどうなんだ?」 それから、斗織のお父さんの言葉。 「俺は、……勉強はもっと頑張る。遼に釣り合うように。それから、茶道も疎かにしない。遼に対して胸張って、俺の仕事だって言えるくらい」 俺の手に重なる掌に、グッと力が篭もる。 「遼のことを幸せにしたい。遼と一緒に幸せになりたい。……孫の…顔は、見せられないけど……、母上の期待に背くような事はしません!  だから───っ!」 「「おねがいします!!」」

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