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第399話 お母様
長い───長い沈黙ののち
斗織のお母さんは、息をスゥーッと吐き出した。
呼吸の音は静寂の中、存外に大きく響いて………
吐き出されるであろう答えの前に、体がビクリと震えた。
「来年の4月、1年間離れた後に、もし2人が今と同じように互いを想い合っていなければ、───許しませんよ」
「っ────はい…!」
隣で斗織が身を起こし、大きな声で返事した。
俺は、頭の中に半透明の膜が張ったような状態で、何を言われたのか理解出来なくて…………
何を改めればいい?
俺の何処を直せば認めてもらえるんだろう?
俺がこんな泣き虫だから……だから斗織に相応しくないって………
「遼!」
肩を揺すられて、顔を上げる。
「遼!分かってるか!?」
勢い良く引っ張られて、苦しいほどに抱き締められる。
「とぉる……俺、だめ…?」
「ダメじゃねェ!お前はそのまんま、俺のことを好きでいりゃあそれでいい」
「っ…………すきで…いいの……?」
「好きじゃなきゃ駄目に決まってんだろ!」
そろそろと斗織の背中に腕を回す。
怒られる…?
うちの子にくっつくなって……もっと怒らせたりしない……?
怖くて…怖くて……斗織の肩口に縋るように…顔を擦り付けた。
頭のうしろに回った手が、ゆっくりと優しく撫でてくれる。
弱くてごめん………
一緒に戦えなくてごめん………
でも、絶対あきらめないから
きっと認めてもらえるように、努力するから───
そんな風に筋違いな決意を胸に、声を殺して涙を零していたんだ。
堪えきれない涙を流し続ける俺に、斗織は辛抱強く、もう大丈夫だと教えてくれた。
───えっ?そうなの!?
既に認められてたの!?
そんなことに漸く気づけば、ひとり泣きじゃくっていたことがとてつもなく恥ずかしく………、しかも俺、皆の前で斗織に抱き着いちゃってたし…!!
皆の前って言うか、斗織のお父さんとお母さんの前でなんてこと───!!!
「少々脅かしすぎましたね」
「少々ではありません、お母様。やり過ぎです」
困ったように笑う斗織のお母さんと、それを窘めるように、やっぱり微笑 ってる芽衣さんと。
「遼司さん」
「はいっ!」
名前を呼ばれて、背けてた顔を慌ててそちらへ向けた。
「寿也 さんも」
「はい」
マナちゃん先輩も改まったように姿勢を正す。
「お二人とも、これからはわたくしの事はお母様と呼んで頂けますか? 芽衣さんからもそう呼ばれておりますの」
「っ──!」
「「はい、お母様!!」」
返事の声が揃ったあと、2人顔を見合わせて笑った。
一也お兄さんとマナちゃん先生も、斗織のご両親に認められたんだ!
よかった………本当に、よかった!!
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