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第400話 お姫様と王子様

あの後、促されて立ち上がろうとした俺は、いつの間にか膝上から落としていたエプロンに足を取られ…… 咄嗟に支えてくれようと手を伸ばした斗織の奮闘虚しく、おでこを床に強かぶつけた。 芽衣さんが離の家からおでこ冷え冷えシート(子供用)を持ってきてくれて、おでこにピッタンコ。 真衣ちゃんにも、痛いの飛んでけしてもらって、「大丈夫だよ」って笑ってみせたけど……… 実はまだ、ちょっと痛い。 斗織にもっとくっついて慰めてほしい。 いっそ斗織に、痛いの痛いの飛んでけ~ってして欲しい。 おでこにちゅー一発で痛いのなんて飛んじゃうんだけどなぁ。 「あの、……お母様…」 「なんでしょう?」 ごはんを終えて(家政婦のハナさんが全部やってくれたから俺のお手伝いは必要なかった) 斗織は今、うちの家族と斗織のお父さん、一也お兄さんと一緒に、ちょっと離れたトコに居る。 俺はお母様、大和お兄ちゃん一家、マナちゃん先生に囲まれて…… 多分、それぞれに聞きたいことがあったり、見守りたかったり。思うところがあるんだと思う。 俺からも訊きたいことがある。 だから、勇気を出して、お母様(まだ照れる…)に訊ねたんだ。 「いつ、気付かれたんでしょうか?」 「昨日のことですよ」 「昨日!? ですか…?」 つい最近のこととは思ったけど、余りに直近過ぎて面食らった。 「この子がね」 俺の顔から視線を下げる。 そこには、とっても楽しそうな真衣ちゃんの姿。 ご飯前に、いいこいいこぎゅっ、てしてくれた斗織の大切な姪っ子ちゃんは、食事(離乳食+別室での授乳)を終えてまた俺の膝に戻ってきてくれた。 いつもは授乳後すぐに眠っちゃうそうなんだけど、今日は人が多くて興奮してるのか、眠い顔ひとつ見せずにとっても元気。 子供たちのヒーローの主題歌を高らかに歌う姿がまた………! うぅ……、かわいい。 流石斗織の姪っ子…! 「遼司さんが征二の勉強を見て下さっている時、わたくし階下で真衣と侑士と遊んでおりましたの。  真衣が、お姫様と王子様の絵を書いていて───」 『真衣、そちらはお姫様と王子様?』 『あいっ』 『お姫様は真衣かしら?王子様はどなたなの?』 『うーぅ。とーゅおにーたっと、りょーおにーたっ』 『斗織と、……遼司さん?』 『あいっ』 『ふたりはラブラブなんだって、マナちゃんがゆってた。けっこんすんだって』 『え……、侑士…? 斗織と遼司さんが結婚……と言われたの?』 『うん。マナちゃんとおじさんも』 『寿也さんと……一也さんも…!?』 「真衣と侑士からそう言われて、貴方方を見てみれば、愛しさを思わせる眼差しで互いを見ていて……」 「ぅ………すみません……」 「あら、何故謝罪なさるの?」 「……な、何故でしょう…」 「ふふっ、可笑しな遼司さんですこと」 斗織の恐れる、ずっと怖い人だと思っていたその人は、口元に袖口を当て、ほんわかほんわか微笑った。 「我が家の息子たちは、少々卑怯なのですわ」 「卑怯…ですか?」 「ええ、そうでしょう? 上と下は世間体も考えず、男性を連れてくる。真ん中は、相手は女性だけれど学生結婚」 大和お兄ちゃんと芽衣さんの結婚秘話は、斗織から聞いたことがある。 まだ2人が二十歳の頃。 お兄ちゃんは医大の3年生。芽衣さんは、短大を卒業して就職。 その就職先で芽衣さんは、先輩社員から好意を伝えられたらしい。 直属の先輩だから無下に扱えない。けれど、交際を断った後も何度も食事に誘われる。 どうしようと相談されたお兄ちゃんは、まだ学生であるに拘わらず結婚をして彼女を守ったという話。 「でもね、遼司さん。芽衣さんもそうでしたけれど、寿也さんにも、勿論遼司さんにも、わたくしとても好意を持っておりますの。  学生であること、男性同士であること。些細な問題では無い筈なのに、わたくしには貴方方とお会い出来なくなる事の方が重大。そう考えるだけで、とても淋しく感じるのですよ」

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