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第406話 生まれる前から…
檜の香り漂うお風呂場に入ってシャワーで体を流す。
「ほら、遼。洗ってやるからソコ座れ」
「はぁい」
木製のバスチェアにどかりと腰を下ろした斗織。
その膝の前に置かれたお揃いの椅子は無視して、斗織の膝に向かい合わせに座った。
「……コラ」
「ん?」
「ん、じゃねェ。ソコ座ったら洗えねェだろ」
「ちょっとだけ……甘えたいんだけど。……だめ?」
ほっぺをスリ、と擦り付けると、斗織は観念した様子でため息を吐き、頭を抱き寄せてくれた。
わぁい。勝った勝った!
「さっきも甘えてただろーが」
「でも剥がされたぁ」
鼻を首筋にくっつけてクンクンしてたら、頭頂部をぺちんと叩かれた。
痛…くはないけどさぁ……
「……今は何もしないから、部屋に帰ったらシてもいい?」
「2つ隣に一也兄さんとマナちゃんが居なけりゃな。つか遼、何もしねェって、しっかり腰擦り付けてんじゃねェか」
「……はっ!つい無意識で…!」
「無意識でサカってくんな」
「だって……、くっついたら気持ち良かったもので……」
「気持ち良いのは…まあ……」
「わかるよね!わかってくれるよね!?」
「けどな、遼。そこで我慢できるのが人間。我慢出来ねェなら獣だ」
「っ!!」
肩に両手を置いて、諭された……。
遼ちゃん獣ですか!?
じゃあいいよ。千歩譲って獣でいいよ!
でも、もし獣だって言うなら、一体なんだって言うんだろ…?
斗織から見た俺って可愛いはずだから……、子猫ちゃん?
ハムスターとか?
子羊?リス?
トイプーなんかもアリだよね!
「うさぎ。万年発情期だから」
「っ!!───ひどいッ! うさぎ自体は悪くないけど理由がヒドイ!!」
「そう思うなら、何事もなく風呂を終わらせろ」
「うぅ……」
斗織の膝から下りて、傍の椅子に背中を向けて座った。
だってさ、だって……くっついてたいんだもん。
くっついてたらすっごく気持ちいいの、俺だけじゃないと思うんだ。
肌がピタッ…て、まるでやっと見つけた対のように……ううん、元々は一つのものだったかのように、ぴったり合わさるんだもん。
「……なんかさ。斗織と俺は、前世で1人の人間だったんじゃないかって思うんだよ。」
「なんだよ、急に…?」
頭をわしゃわしゃ洗ってくれる、その手が触れる箇所もすこぶる気持ちいい……
「例えば、自分に恋した人がいてね、自分で自分を抱き締めるんだけど、やっぱりそれは自分の腕で、身体全部は抱き締められないから物足りないの」
「自分の右手で抜くみてェなことか」
……やめて。俺の美しい前世話に下ネタぶっ込んでくるのは。
「でね、来世は2人に分かれて、互いに互いを抱き締め合おうって、そう願いながら命を引き取ったんだよ。
それが、俺と斗織なのです!」
「………はいはい」
むー…、なんだその反応はぁ!
「……じゃあさ、前世でも2人は恋人同士だった説は?」
「なんだよ、その説は。話してみろよ」
可笑しそうに噴き出す斗織を睨みあげると、目ェ閉じてろ、って泡だらけの頭を流してくれた。
「あのね、俺と斗織は今とおんなじように、仲のいい恋人同士でね」
泡立ったスポンジが腕をクルクルと滑ってく。
擽ったくて身を捩ると、腕でそんなじゃ後が困るって、少しだけ笑われた。
「2人は末永く、穏やかに暮らしたんだよ。で、お互いシワシワのおじいちゃんになってね…。
しあわせだったね。来世でも一緒になろうねって誓い合って、命を引き取ったんだ」
「……そっちの方がいいな」
「ほんと!? じゃあ、前世でも恋人同士だった説でいこう!」
「前世って、自作の説でどうにかなるもんなのな」
「うん!だって、俺達の前世だもん」
他の誰のものでもない、俺と斗織、二人の前世。
本当に人の前世を占える人が居たとして、その人がそうじゃないって言ったとしても、そんなの知ったこっちゃない!
俺達がそれがいいって言ってるんだから、それでいいんだもん。
確かめる術なんて無いんだ。
だったら、二人が嬉しい過去を想像して、何が悪いの?
別に、武将の生まれ変わりだ! 私は神だ! なんて言い放ってる訳じゃない。
愛し合ってる2人が生まれ変わっても巡り会うなんて素敵ね、って、それでいいじゃないか。
そう云う訳で、『斗織と遼司は前世でもラブラブな恋人同士だった』で進めたいと思います。
宜しくお願いしますっ!
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