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第5話 俺のモン1
【斗織Side】
今まで浮き足立ったようにふわふわと後をついてきていた奴が、教室に入るなり離れていった。
声の一つも掛けろよな…。
不満に思いながら、教卓の真ん前の席に戻っていく背中を見つめる。
「おっかえりー」
掛けられた声と、突然背中に感じた重み。
マメだ。
大豆田 竜臥 、大豆を名乗る割に身長150cm台とちっせえから、時々「小豆田」とかってからかわれてる。
俺とは小学校からの同級で、この学校じゃ一番付き合いが長い。
「んで? 綺麗サッパリ別れられたん?」
背中から下りたマメが前に回って覗き込んでくる。
「お陰様で」
「って、その言い方ヒデーし」
プッと噴き出してゲラゲラ笑う。
見た目小学生…は言い過ぎか。殴られる。中学生男子。
俺は老けて見られるから、私服で2人で遊んでると奇妙な視線を向けられることが多い。一応、同い年なんだが。
俺が怪しい大人に見られる。いい迷惑だ。
「んじゃ、しばらくオレと遊べるなっ!」
「いや」
即答すると、不満気に睨み上げられた。
「なんでだよーっ!?」
「新しいの出来た」
「はぁっ!? お前、今までは一週間とか二週間とか間空いてたじゃんよー!」
……そういや、間髪入れずに付き合うの、初めてだっけか。
別れてすぐ告られても、めんどくせーっつって断ってたしな。
「誰だよ相手~?」
そう訊かれて、自然と視線が教室の前に向いていた。
紫藤は教卓の真ん前の席で、隣の中山と話してた。
そういや俺、紫藤と教室で喋ったことあったかな? 近くの席になったこともねェしな。
……だっつーのに中山アイツ、人のモンに馴れ馴れしくねェか?
「ん? 前の方の席の子?」とマメはしばらくキョロキョロとしていたが、ふと思い出したように俺を見上げてきた。
「あっ、なあなあ知ってる? 中山」
「一番前の席の奴だろ? 知ってっけど」
「ちげーよ! 噂の話だよ」
そこでマメは、声のトーンを落とす。
「中山の隣の席の紫藤さ、男の割に細いし、なんかふわふわ癒やし系っつーか、顔も結構可愛いじゃん?」
「ああ」
確かに、細かったな。
腰なんか、ほんとに男かっつーぐらい華奢だったし、雰囲気も……まあ、フワフワ? 捉えどころないっつーか。
可愛くなきゃ相手する気にもなんなかったろうし。
「んでさ、中山ホモで、紫藤狙ってるって話」
「はあ!?」
「いや、声デケーって」
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