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第8話 やっぱり
困って足が止まっていると、
「柴藤」
肩を優しく叩かれた。
振り返ると、黒髪長身のコイビトがカバンを持って立っていた。
「帰るぞ」
「はいっ」
反射的に返事をしていて。そんな自分が可笑しくて、思わず口元が綻んだ。
好きで付き合い始めたわけじゃないけど、カレシだからかな?
昼休みに初めて話したくらいの浅い仲なのに、羽崎の言葉にはつい従ってしまう。
背筋のスッと伸びた風格さえ感じさせる姿に、知らず圧倒されているんだろうか。
そう言えば羽崎は同年代とは違う物腰って言うか、ふとした部分で独特の雰囲気を感じさせるところがあって、つい目を奪われてしまうことが今までにも多々あった。
それが恋人って言うんだから、余計に目で追ったりしちゃうよね。
「カバン、持つか?」
手を差し出される。
俺のカバンを持ってくれるってことかな?
「ん?なんで?」
「いや。そうしてきたから」
歴代彼女たちにそうしてきたってこと?
「ううん。自分で持つよ。ありがと」
……なんだ。別れの場面見てヒドイ奴だなぁって思ってたけど、付き合ってるときは優しいんだ、羽崎。
一緒に帰ろうって誘ってくれたり、頭撫でてくれたり。
「なあ、柴藤っ」
羽崎の顔を見上げていたから気配に気づかなかった。
弾む声に、目線を下げる。
俺より10cmぐらい下にある顔。
小…大豆田くんって言ったっけ。前髪上げて、髪の毛もツンって立てて、ちょっとヤンチャそうな人。
多分、話すの初めてな筈。
良く一緒にいるの見掛けるから、羽崎の友達だと思うんだけど。
「俺も一緒に帰っていいよな!」
羽崎の友達なら、って頷こうとして、
「駄目に決まってんだろが」
背中に隠された。
「なんでだよ、ケチ!」
「お前、今までのオンナん時そんなん言ってこなかっただろーが」
「いーじゃん。女じゃねーんだから」
「俺のオンナに違いねぇだろーが」
「てか、マジで付き合ってんのかよ~っ!どうしちゃったんだよ、女が好きなんじゃなかったのかよ、トオル~~っ」
………やっぱり。
友達が男と付き合うとか、イヤだよね。
俺だって…。もし俺に友達がいて、そいつから、好きだった女の子と付き合えることになったって言われたら、きっと一緒になって喜ぶと思う。おめでとう!って。
だけど、恋人が出来た。別に好きでもなんでもない相手で、しかも男同士だけど付き合うことにした、って言われたら……
なんで!?ってなっちゃうのが、当然の反応だ。
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