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第12話 勉強してるかな
自宅マンションに着いて、エレベーターに乗り込む。
16階で降りてすぐの部屋。おっきめのワンルーム。
父親と二人暮らしで、物はあんまり置いて無い。
娯楽グッズは、テレビとブルーレイレコーダー、ゲーム機とゲームソフトくらい。
パソコン、掃除機、冷蔵庫、オーブンレンジ。ランドリールームに洗濯乾燥機。
お料理して食べる器具、最低限の食器類。
後は、学校の物と衣類と、身嗜みを整える系のもの。
壁には時計とカレンダーのみ。ポスターや写真の類は一切貼ってない。
食事の時はダイニングテーブルで、部屋の隅には父さんのベッドと俺のベッドが離れたところに1つずつ。
こうして見ると、黒や銀色の電化製品が多いな。家の中、なんだか冷たい感じがする。
なんだろう……?
今まではそれが普通だったのに、今日学校がやけに楽しかったから?
淋しい、なんて感じるの、………危ない危ない。心が弱ってる。
「試験勉強しよ」
言葉に出して気合を入れて、カバンから教科書を取り出そうとすると、
ブブッ……
ポケットの中でスマホが震えた。
もしかして羽崎!?
胸がドキッて跳ねて、
……だけど、
すぐに連絡先を交換してさえいないことを思い出した。
……そっかぁ。学校に行けば会えるから、ケー番もメアドも必要無いもんなぁ。
案の定、父さんからのLime(SNS)メッセだった。
『今日は遅くなるから、先に夕飯を食べて寝ていなさい』
今日は、じゃなくて、今日も、だろー。
最近ずっと、家に帰るのは0時過ぎ。車通勤だから、終電を逃す心配はないって言っても、気になるのはそこじゃなくて。
身体、大丈夫なのかな…?
そんな事を一緒に心配する母親も居ない。
なんか、孤独だな………
ねぇ、貴方も孤独を感じてるの? 父さん……
勉強するつもりだったのにそんな気分でもなくなって、床の上に仰向けにひっくり返る。
明日また、いっぱい喋れるかな……羽崎。
「とー…る……」
名前を呟いて、自分の唇を摘んでみる。
2回も摘まれちゃった。
………4回も、キスしちゃった。
どうしようもなく恥ずかしくなって、クッションを抱きかかえて床を転げまわる。
そんな虚しい筈の行動で、なんでかやけに胸が熱くなって………
「あーっ、ぬいぐるみ欲しーっ」
クッションなんかじゃなくてぬいぐるみ抱っこしてるんなら、いくらでもちゅーって出来んのに! って、乙女みたいな考えが浮かぶ。
くまかなぁ?
肉食獣だよね。
トラとか? ヒョウとか?
……あ、黒豹がいいかも。
しなやかで、猛々しくて、気高い感じ。羽崎っぽい。
買いに行こうかなぁ……
どっかにおっきなぬいぐるみ売ってる店あるかな?
新宿まで出ちゃおうかな。
気持ちが急浮上して、やる気も復活。
起き上がって教科書を開く。
羽崎も勉強してるかな?
「勉強してるかな?…斗織……」
思った事を、声に出して繰り返す。
うーん、気持ち悪いなぁ、俺。
「それとも、りぅがくんと遊んでるのかな……斗織」
コッソリ名前で呼んでみた、なんて知られたら、流石にフラレちゃう……よね。
少なくとも、日本列島飛び出しちゃうくらいには引かれる。
羽崎は、ナチュラルに俺のこと『遼』って呼んでくれたのになぁ。
遼司って、おじさん臭い名前でちょっと恥ずかしいなって思ってたけど、羽崎にそんな風に略して呼ばれるとカッコよくなったみたいに感じるから不思議。
やっぱりカッコイイ人は立ち振る舞いもカッコイイよなぁ。
俺、いきなり下の名前で呼び捨てとかできないもん。
カッコいい人は自分に自信がある故ナチュラルになんでも出来るんだろうと結論付けて、首を数回プルプル。邪気を払って勉強に手を付ける。
俺はせめて羽崎に恥ずかしくないよう、勉強くらいは頑張らないと!
それから、夕飯までの数時間とご飯を食べてからの数時間、俺は試験勉強に励んだのだった。
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