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第28話 ワン切り
そのうち斗織は、俺と自分のスマホとを向き合わせてフルフル振り出す。
……何してんだろう、この人。
ピコリンと電子音を鳴らすと、スマホを返してくれた。
「あと、ケー番あればいいか…」
画面を見ると、そこに斗織のIDが登録されてた。
「……え?いいの?俺に教えて……」
「は?何言ってんだ。知らなきゃ連絡出来ねェだろーが」
「でも……」
学校に来れば会えるんだし、と続けようとした言葉は、目の前に突き付けられた黒いスマホに遮られる。
「ほら、お前の番号打ってワン切りしろ」
「ワン…ぎり…?」
犬…的な、なにか?
お手?
「ワン…?」
斗織のスマホにお手をすると、頭にポンと手を置かれた。
「犬か、お前は」
まだ、斬り、の方やってないのに、なんでか止められる。
「ここにお前のケー番打って」
「うん……」
言われた通り、11文字の数字を打ち込む。
そしてスマホを斗織に返すと、そのタイミングで手に持ってた俺のスマホがブルブルと震えだした。
「あっ、電話っ」
父さんからかも。
そう思って慌てて見ると、直ぐに電話は切れてしまう。
しかも、
「知らない番号だ……」
なんだろ、怖いなぁ。間違いかなぁ…?
困ってひとり固まってると、斗織がまたポンポンと優しく頭を撫でてくれる。
心配してくれてるのかな……?
そう思って見上げると、
「天然か」
おでこにピンってデコピンされた。
あんまり痛くないやつ。
「えっ、だって、知らない番号…」
「だから、今俺がワン切りしたんだろ?」
「ワンぎりって……なに?」
「ワンコールで切ることだろ」
ワンコール……
それじゃあ、ワン切りのワンって、「ワンッ」じゃなくて、『One』……?
「───さよならっ!」
「こら、勝手に帰んな」
恥ずかしくて逃げ去ろうとしてるのに、襟首を掴んで止められた。
その勢いで、カバンとコートが手からずり落ちる。
ブレザーのボタンが全開だったから、腕を背後にやればスルリと脱げてしまう。
なんとなく腕をバッテンにして胸元を隠して、顔だけで振り返った。
「………えっち」
「馬鹿か。シャツ着てんだろーが」
じゃあなんで、心なしか顔が赤いんだよぅ…。
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