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第32話 和服の男

図書室を出て、級長の背中を追いかける。 「さて、今日は羽崎君は部活動だと言っていましたが」 廊下にある扉から、中庭に出る。 この学校は校舎内も外履きのままだから、靴を履き替える必要がない。 「あそこに見えるのが、茶道部の部室、茶室です」 言われた方を見ると、和風っぽい造りの一角があった。 木枠の窓の下に、ちっちゃい引き戸の扉がある。 変な入口…… そう思って見ていると、 「あれはにじり口と言うんです。茶室への入り口ですよ」 級長が教えてくれた。 「にじり口は基本、小間の茶室に付けるものなので、恐らくあれは生徒にこういうものだと見せるためのもの。廊下側に襖の入口が付いているのでしょうが」 「はぁ……なるほど…」 あの低い位置の小さな穴から中に入るのか……。 茶人って、大変。 「さあ、中を覗いてみてください」 さあ!と繰り返すから、失礼しますと一応断り、上の窓から中を見る。 茶道部って、着物で活動するんだ……。 茶室の中には着物の女の子たちと女性の先生、そして着物の男性が一人。 ───っ! あの着物の(ひと)…! 背中を向けてるけど、絶対に斗織だ。 「かっ…こいい……」 無地のグレーの着物に、黒の袴。 畳に正座する姿は、背筋がスッと伸びててとても凛々しい。 お茶を点ててる女の子と、ずらりと横並びに座る女の子たち。 向こうの正式な入口であろう襖の近くに先生。 斗織は何故か、お茶を点ててる女の子の斜め後ろに座っていた。 その時、窓から射し込む西陽が遮られたのが気になったんだろう。 斗織がこちらをチラリと振り返った。 「あ……」 目が合ったから、手を振ってみる。 応えてはくれなかったけど、斗織の口元がフッと緩んだのが見えた。 「さて、続きと行きましょうか」 背後から掛けられた声に、すっかり級長の存在を忘れていた事に気付いて、慌ててその背中を追った。

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