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第33話 薄い本
級長は中庭のベンチに座って、隣を指した。
言われるがまま腰を下ろすと、カバンから出した本を渡してくれる。
普通のマンガよりもおっきくて、薄い本…だ。
「読んでいいの?」
そう訊ねると、級長は妙な条件を付けてきた。
「ええ。黒髪の方を羽崎君だと想像して読んでください」
「黒髪の方……はい…」
よくわからないけど、読んでみればわかるだろう。
表紙を開いて……マンガなのかな?
中表紙では、黒髪の大人っぽい顔の少年──高校生くらい?──が、ショートカットの可愛い女の子を背中からギュって抱きしめてた。
少女マンガ?
柔らかくて綺麗な絵柄だけど、
……………っ!?
思わずパタンと本を閉じた。
「濡れ場なんですけど?!」
「ええ、濡れ場です。しかし我々は未だ高校生ですので、R-15。18禁ではないので安心してください」
「えっ、えぇ!?」
級長が!学校で!やらしい本を見せ付けてくるよぉっ!
どうなってるんだ、都会の学校!?
「ほら、早く」
「う…うぅ……」
これって、女子がよく読んでるTLってやつ?
なんで級長がそんなの持ち歩いてるんだよぅ……
半涙目になって本をそーっと開く。
学校で、シャツ捲り上げてエッチなことしてる~~っ!
準備室ってのは先生が授業の準備に使う部屋で、オトナになる準備のための部屋じゃないんだぞ………ん??
思わずマンガに目を凝らす。
女の子、上、下着着けてない……いやいや、そういう子も居るかもしんないし。これ、中学生かもしんないもんな!
……胸、やたらとぺったんこだ……。だけど、まあ…うん。まだ成長前なのかもだし。
っふあわわっ!?ち○ちん付いてる───!!?
「きゅっ、きゅっ…きぅーちょぉっ?! 女の子がっ男の子でっ!股にっ、それなりに立派なものがぁっ!!」
モザイクって言うの?光で飛んでるみたいにその形に真っ白になってる…けどっ!
先からトロトロ出てるしっ?!
これって、いわゆる…あの……トロトロ……〜〜〜っっ
「彼は正真正銘男の子ですよ」
「男の子……、そう…だよね…」
だって、ついてるもん。
お尻はぷりんってしてて腰細いけど、胸、無いし…
「えっと…じゃあ、黒髪が女の子?…え、でも斗織と思ってって…え、なに??」
「ああ、知りませんでしたか?それはBL──ボーイズラブと呼ばれる、男性同士の恋愛を題材とした日本のサブカルチャーの一つです。そして僕は、BLをこよなく愛し、崇拝する、一般的に腐男子と呼ばれる者」
級長は出来る男よろしく眼鏡をクイッと上げると、不敵に微笑んだ。
今、カッコつけるポイントありましたか!?
「理解は出来ましたか?それでは、読み進めて下さい」
くれぐれも、黒髪を羽崎君に変換することを忘れないよう、と、先生が明日までの提出物を促す時と同じ調子で言うと、級長は早く開けと言わんばかりに顎でクイッと本を示した。
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