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第38話 撤退命令
ふわっと良い香りが漂ってくる。
着物って、お香を焚き染めて香りをつけるんだっけ…。
その匂い、なのかな?
「どうした?和装の俺に発情したのか?」
「……いじわる…」
これは、級長に読まされたBL本のせいだもん。
ほっぺをぷくっと膨らませると、色気ねェなぁって笑いながら、ちゅってしてくれた。
「ねえ、斗織……」
「ん?」
「俺がノーパンで着流し着てたら、斗織もハツジョーする?」
「ぶふッ!?」
あ……、斗織、変な咳した。
「なんだよぉ、俺じゃだめなの?」
腕の中で回転して見上げると、顔を逸らされる。
「俺じゃ…反応しない?」
袴の上から探し当てて、そーっと擦り上げる。
斗織の体がビクッと震えて。見上げた顔は少し、赤い気がする。
掌を形に合わせて撫で上げ、最後に指先をツツーっと滑らせた。
「ね…ココ……」
肩に両手を乗せて背伸びして、斗織の耳に口元を寄せる。
「斗織のぶっといので、俺の中……いっぱい感じさせて」
「っ───」
斗織は何人もと付き合ってきてるから、こういう事には免疫があるだろう。
だから吐息多めに声を出して、最後にフッと息を掛けた。
「遼、お前……」
「ん~?」
へへ~っ、冗談でしたー!
って悪ふざけを暴露しようとした瞬間───
「お前、帰り、待ってろ」
「えっ……」
「いいから待ってろ」
「はいっ」
やたらに真っ赤な顔でそう言うから、ビックリしちゃって……また条件反射で頷いてた。
見ている先で斗織は頭からにじり口をくぐり、草履を取って、その扉を閉めた。
「え………えぇー…」
どうしよう、冗談だって言わせてもらえなかった!
このままじゃ俺、本当に斗織に突っ込まれたい人みたいだよ!?
待ってろって……待ってろって斗織、そう言う意味で言ってる!?
俺、童貞の前に処女喪失しちゃう───!?
「だっ、だめだめっ、さすがにそれは…っ!」
頭を抱えて首を横に振る。
「斗織っ、男抱けんの!?」
俺っ、俺っ、初めては好きな人がいいよぉっ!
「そっ、そうだ!きぅちょうっ、逃げよう!」
走って行って訴えると、
「……何を言ってるんですか、君は。あれだけ挑発しておいて」
級長は呆れ顔で座ったまま見上げてきた。
「ちがうもんっ、だって、冗談で言ったんだよ!?」
「質の悪い冗談です」
「それはっ、反省してるからぁっ」
「では、今君と逃げることで僕に生じるメリットは?」
「進行状況を逐一報告しますっ」
「……分かりました。それでは、撤退です」
「はいっ、ちょーかん!」
俺たちは無事、逃げ果せた。
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