38 / 418

第38話 撤退命令

ふわっと良い香りが漂ってくる。 着物って、お香を焚き染めて香りをつけるんだっけ…。 その匂い、なのかな? 「どうした?和装の俺に発情したのか?」 「……いじわる…」 これは、級長に読まされたBL本のせいだもん。 ほっぺをぷくっと膨らませると、色気ねェなぁって笑いながら、ちゅってしてくれた。 「ねえ、斗織……」 「ん?」 「俺がノーパンで着流し着てたら、斗織もハツジョーする?」 「ぶふッ!?」 あ……、斗織、変な咳した。 「なんだよぉ、俺じゃだめなの?」 腕の中で回転して見上げると、顔を逸らされる。 「俺じゃ…反応しない?」 袴の上から探し当てて、そーっと擦り上げる。 斗織の体がビクッと震えて。見上げた顔は少し、赤い気がする。 掌を形に合わせて撫で上げ、最後に指先をツツーっと滑らせた。 「ね…ココ……」 肩に両手を乗せて背伸びして、斗織の耳に口元を寄せる。 「斗織のぶっといので、俺の中……いっぱい感じさせて」 「っ───」 斗織は何人もと付き合ってきてるから、こういう事には免疫があるだろう。 だから吐息多めに声を出して、最後にフッと息を掛けた。 「遼、お前……」 「ん~?」 へへ~っ、冗談でしたー! って悪ふざけを暴露しようとした瞬間─── 「お前、帰り、待ってろ」 「えっ……」 「いいから待ってろ」 「はいっ」 やたらに真っ赤な顔でそう言うから、ビックリしちゃって……また条件反射で頷いてた。 見ている先で斗織は頭からにじり口をくぐり、草履を取って、その扉を閉めた。 「え………えぇー…」 どうしよう、冗談だって言わせてもらえなかった! このままじゃ俺、本当に斗織に突っ込まれたい人みたいだよ!? 待ってろって……待ってろって斗織、そう言う意味で言ってる!? 俺、童貞の前に処女喪失しちゃう───!? 「だっ、だめだめっ、さすがにそれは…っ!」 頭を抱えて首を横に振る。 「斗織っ、男抱けんの!?」 俺っ、俺っ、初めては好きな人がいいよぉっ! 「そっ、そうだ!きぅちょうっ、逃げよう!」 走って行って訴えると、 「……何を言ってるんですか、君は。あれだけ挑発しておいて」 級長は呆れ顔で座ったまま見上げてきた。 「ちがうもんっ、だって、冗談で言ったんだよ!?」 「質の悪い冗談です」 「それはっ、反省してるからぁっ」 「では、今君と逃げることで僕に生じるメリットは?」 「進行状況を逐一報告しますっ」 「……分かりました。それでは、撤退です」 「はいっ、ちょーかん!」 俺たちは無事、逃げ果せた。

ともだちにシェアしよう!