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第42話 紫藤家の朝-1
火を止めて中身を皿に移すと、まだ熱々のフライパンを洗う。
マシンが落とし終えたコーヒーをマグカップに注いで振り返ると、父さんがもっさりとダイニングの椅子に腰を下ろしたところだった。
「おはよう。はい、コーヒー」
「お…はよぅ…」
まだ寝ぼけてるな、父さん。
「熱いから気をつけてね」
「うー…」
「ああ、もう。ちゃんと持って。危ないよ」
「あぁ…」
大丈夫かなぁ。
毎度のことながら心配だなぁ、もう。
大体、父さんは頑張りすぎなんだよ。
毎年毎年色んなとこに異動してさ、帰りも毎日遅いし、社畜過ぎ。
「はい、糖質とエネルギー。細かくしておいたから、めんどくさがらずに全部食べてね」
ダイスにカットしたフレンチトーストのお皿を目の前に置くと、父さんはフォークでそれを刺してもさもさと食べ始める。
ああっ、ジャムがボタボタ垂れてるっ!
「父さん、ほら、お皿もっと寄せて」
台ふきんでテーブルを拭いてお皿を渡すと、半眼を開いて俺を見上げた。
「なぁに?」
「いや。…遼司、良いお嫁さんになるよ」
「なんないよっ!!」
ほんともう、目ぇ覚めたんなら食べる方に神経使え!
「あとこれ、お弁当。カバンに入れとくからね」
「ああ、ありがとう。それとこれ、ご馳走様」
父さんはすっかり目が覚めたようで、素早く食べ終えると流しにお皿とマグカップを運んで、そこで何かに気付いたようにふ、と動きを止めた。
「遼司、彼女出来たの?」
「えー?」
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