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第52話 ご機嫌
「ところで紫藤君、ご機嫌ですね」
ご機嫌?
そうかな、そんなふうに見えるのかな?
「その上機嫌は、羽崎君に抱っこされて歩いていたことと関係ありますか?」
「えっ、抱っこ!?」
中山が大仰に驚いて、話に食い付いた。
「抱っこって言うか、俺、脇に挟まれてただけなんだけど」
見ていたのかと級長に訊けば、ニヤリと笑われた。
「ええ。一緒にいた同好会の友人に、どうしてあんな逸材がいることを教えなかったのかと問い詰められていて、教室に着くのが遅くなりました」
「同好会って?」
「BL文学同好会です」
さすが級長、ブレないなぁ。
「紫藤君、それで?」
級長の目が、昨日逐一報告すると約束したでしょう?と言っている。
「あ、あのね、斗織が俺のコートと俺のこと、可愛いって言ってくれたんだ」
「そんなの!紫藤は前からずっと可愛いじゃんか!」
「え、そう?…ありがと」
拳をぎゅっと握りしめて、訴えるかのように叫ぶ中山。
教室に声が響いて、ちょっと恥ずかしい。
「でね、急に照れて忘れろって言うから、ヤダって言って逃げたんだ。結局すぐ追いつかれて担がれてそのまま学校まで運ばれたんだけど」
「羽崎君が、照れましたか」
「うん。斗織の照れ顔、可愛かったよ」
思い出して、ふふっと笑う。
赤くなってたもん。
忘れろって言って。
きっと、捕まえた後にどうしていいかわからなくなって、脇挟みしたんだと思う。
「え、なになに?トオル照れてたって?」
突然両肩に重みを感じた。
リューガくんに後ろから抱き着かれたからだった。
「おはよう、りぅがくん」
「はよっ、リョーちん。と、その仲間たち」
仲間たち、と称された彼らは訂正もせずにそれぞれ挨拶を返す。
「実は、羽崎君が紫藤君に、コートも君も可愛いね、食べてしまいたいくらいだ、と言った後に照れたのだと言う話を聞いていました」
「えっ!?トオルキモッ、アイツそーゆうキャラ!?」
いや…、それ、捏造されてる……。
確か、腐ィルターって言うんだっけ?
何でもない友達同士のやり取りが、ラブラブな2人に変換されて見えちゃうってやつ。
俺達の場合は、まあそもそもただの友達じゃない訳なんだけど。
「マメ、誰がキモいって?」
背中にのし掛かりっ放しだった重みが、フッと消えた。
また斗織がリューガくんを持ち上げてる。
リューガくんは斗織を蹴っ飛ばして飛び降りると、俺の顔を見上げてニカッと笑った。
「んでも、リョーちんコートマジ可愛い。ちょー似合ってんよ」
「ありがとー。りぅがくんも可愛いね、ベージュのダッフルコート」
「え、マジでー?女っぽくね?コレ」
「そんなことないよ~。俺は好き」
「あー、リョーちんこーゆーの似合いそう。着てみ着てみ」
「えっ、じゃありぅがくんもこれ着てみてー」
「おう。んじゃ交換してみよーぜ」
「女子校か、ここは」
脱いだ2人分のコートが、斗織によって奪われた。
「女同士の会話聞かされてるみたいだったわ。薄ら寒いわ!」
ポコ、ポコ、と1発ずつ叩かれた。
「痛い…」
「あれ?いつもより弱ぇ」
恨めしげに見上げると、コートを返してくれる。
「ほら、さっさとコート掛けてこい」
「はぁい」
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