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第53話 俺が食う
コートを持って、ロッカーに向かった。
後ろからリューガくんと級長も追いかけて来る。
「なあ、きゅーちょー。そーゆう茶色のPコートってさ、どうすりゃ着こなせるわけ?スゲーオトナに見えんだけど」
「まず、身長をせめて後15cm伸ばしましょうか」
「はあっ!?ちょーっムリ!!」
やっぱりリューガくん、身長のこと気にしてたんだなぁ。
さっきつい可愛いって言っちゃったけど、気にしてないみたいで良かった。
まあ、先にリューガくんが可愛いって言ってきたんだもんね。
それにリューガくんは俺と違って、少年って感じで ほんとにめちゃめちゃ可愛いし!ちっちゃくて。
コートを掛けて戻ると、斗織が俺の席に座ってた。
中山に自分と席を替われと脅しを掛けてるみたいだけど…。
「斗織?」
声を掛けると、中山を蹴り続けてた足を止めて、自分の太ももをポンポンと叩く。
「んー?座るの?」
そうだと頷くから、斗織の膝の上に横向きに座った。
「あーーっ!もう、なんだよ…っ。……うう〜……いいんだよ、俺は友達なんだから……うぐぅ…」
突然叫びだしたかと思えば、中山は頭を抱えて何事かを呟きつつ唸ったり。
なんだろう?今日も朝から情緒不安定でハイテンション?
何か嫌なことでもあったんだろうか。
「中山君は放っておけば その内戻ると思いますよ」
戻ってきた級長が、自分の席をリューガくんに譲りながら教えてくれた。
あ、そーだ。級長に渡すものがあったんだっけ。
思い出して、今の内にとカバンを開いた。
中からファンシーなバッグを取り出す。
ミントグリーンの地に白い小花模様のついた紙袋。
前に雑貨屋で買い物した時の包装袋で、可愛かったから取っておいたものだ。
裸のまま返すの気が引けたから、借りた本を入れたんだ。
「きぅちょう、…これ、ありがと」
級長はそれが何か直ぐにわかったようで、「全部読みましたか?」と優しい笑顔で訊いてきた。
「よ…読みました……」
「では、また新しいものをお貸ししますね」
「いっ、いいよ!大丈夫!いいよ、大丈夫!」
必死に断ってると、リューガくんが、なに?って覗き込んでくる。
「ダメ!それ、新しい世界開けちゃうから!」
慌てて級長から引き剥がした。
「僕は、大豆田君も貴重な受け要員だと考えているのですが」
あぅっ、級長が変なこと言ってる……。
なんとか話を逸らさないと、リューガくんまでコッチの道に引きずり込まれちゃう。
「あ、あのね、それから斗織に」
あわあわしながら斗織に渡したのは、小さめのトートバック。
中には、お弁当と、綺麗にラッピングしてみたエッグタルトが入ってる。
「あの、これね、約束のお弁当」
「あ、…おー」
うっ…、なんだろう、反応ビミョー。
もしかして、冗談で言ってたのかな?
それ本気に受けて作っちゃったとか……
俺、もしかしてちょー勘違い野郎?!
「あっ、だ、大丈夫、冬だから!俺、持って帰って夜に食べるし!」
「えっ!?いらねーの、羽崎!?じゃあ俺にちょーだいっ、しと──」
「フザけんな、俺が食う」
斗織が静かで低い、肉食獣が唸るような声を出した。
中山は途端、まるで子ヤギのように震えておとなしくなる。
「……えと、いるってことで…いいのかな?」
「たりめーだろ。ばーか」
おでこをコツン、と小突かれた。
「あとコレ、何?」
「あ、それ、エッグタルト。斗織、甘い玉子焼き好きって言ってたから、これも好きかなって…」
「俺の為に作ったのか?」
「そう、なんだけど…、いらなかったら俺が食べるから…」
「なんでいちいち取り上げようとしてんだ、テメーは」
手を上げたから、またおでこを叩かれちゃうんだと思った。
だけど斗織は俺の唇を指で挟むと、
「口移しでなら分けてやるよ」
ムギュムギュってやんわり摘んで笑ったのだった。
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