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第54話 ダメになっちゃうから

───ああ、マズいかなぁ…… 屋上のてっぺんに、ほんの数日前までと同じように、1人で座ってお弁当を食べる。 開放していることを皆知らないのか、屋上にはあんまり人が来ない。 さらに入口扉の上のこんな場所なら、上がろうと思う人もいない。 だからここは、転入してきた時からの俺の独り占めスポットだった。 ───後で証明するって約束したのに、逃げて来ちゃった…。 朝、電車の中で斗織から言われた『冗談じゃないなら証明してもらうからな』ってセリフ。 覚えてない訳じゃないから、逃げ出して来たことには、ほんとに悪いことしてるなぁって思ってる。 でも、斗織の傍は心地好くて、楽しくて……。 これ以上一緒にいたら、ダメだから。俺がダメになっちゃうから。 だからやっぱり俺は、一人じゃないといけないんだ。 ガチャッとドアが開く音がした。 誰かが上がってきたみたいだ。 また誰かさんみたいに、別れ話で来たんじゃないといいけど。 思い出して、口元に笑みが浮かぶ。 ひっどい振り方してたよね、斗織。 『好きになれなかった』だっけ。 それから、『一緒にいると疲れる』? じゃあなんで付き合ったんだよって話じゃん。 ……そっか。俺の時も、そうだっけ。 好きじゃなくても付き合えるんだっけ。斗織は。 ………あぁ、俺も…同じか。 「よっ、と」 タシッと音がして、なんだろうと目を上げる。 「───っ!!」 目を下げる。 「遼、なに1人で食ってんだテメー」 顎の下に手を挿し入れて、顔を上げさせられた。 「え、えーと……ごきげんよう」 「ご機嫌よくねェよ」 斗織の手には、俺の渡したお弁当の袋と、あったか~いコーヒーペット缶。 「ここで食べるのかな?」 エヘッと笑って訊いてみる。 「テメーと一緒にな」 俺が逃げ腰なことに気付いたんだろう。 斗織は俺を脚の間に挟むようにして、ドカッと腰を下ろした。 居た堪れない。箸が止まってしまう。 「あの…、ここに居るから、向かい合いで食べてもいい?」 「………」 斗織は黙って立ち上がると、正面に座り直してくれた。 まあそれにしたって、息さえし辛い事に変わりはない。 「……お前さ」 長い沈黙の末に、漸く斗織が口を開いた。 「冗談ならもう言うなって言ったよな」 責めてる言葉の筈なのに、その口調は低く切なく、俺の胸をギュッと締め付ける。 「……冗談じゃ、なくて…」 「ならなんで逃げる?からかってんなら、相当質悪ィぞ、お前」 「からかってるんでもなくて……」 ほんとに、斗織にだけはいっぱい触れたい、触れられたいって、そう思ってんのにな……。 そう思っちゃうことが怖いんだ、なんて。 言っても伝わらないよね。

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