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第56話 我儘
ゆらゆら揺れる世界の中、斗織に手首を掴んで引き寄せられた。
硬い肩に顔を押し当てられれば、滲む世界どころか、もう何も見えない。
「泣いてないよ……俺、平気だも…ん」
「俺は平気じゃない」
斗織が泣いてるとか指摘するから……
俺は全然平気だったのに、急に息苦しくなって───どうしたらいいのか分からなくなる。
しがみついていいのか、突き放した方がいいのか……
「平気じゃないとか…言って、……どうせっ…3ヶ月で捨てるくせにっ」
「は!?捨てねェよ!」
結局俺は、縋り付くように斗織の両腕を握り締めてる。
「3月には居なくなるんだからっ、今別れてよぉっ」
「は!?居なくなるって、お前がか!?」
「悪いかっ!」
「悪いわ!」
はぁ!?意味分かんねェ、ってブツクサ文句は言ってるくせに、背中を撫でる手は優しくて、心地好くて………
離れ難くて、ほんとやんなる。
「4月にまた父さん転勤だもん。斗織、3ヶ月で別れる男って有名だったから、それなら丁度いいから、気まぐれで声かけたんだもん」
「あのな、それは…」
「なのに、斗織の傍は居心地よくて、楽しくて、一緒に居ると気持ちよくて、……そのせいでどんどん、一人の時間が淋しいって思えちゃって……」
「遼……」
「俺これ以上斗織と一緒にいたら、我儘ばっか言っちゃうもん!昨夜だってほんとは、なんで俺が淋しいって言ってんのに家に来てくれないとか言うの?やっぱり、俺のことどうでもいいの!?って、言いたくなって……っ」
泣きじゃくりながら思う。
ああ、こんなに我儘ばっかの泣き虫な男じゃ、めんどくさいって嫌われて、捨てられちゃう。
それは望んでいたことの筈なのに、嫌われるのはイヤだなんて……
やっぱり俺は我儘だ。
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