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第58話 初恋なんだもん

フッと息を吐きだし、少し自嘲気味に笑う斗織の顔は見ないよう、天を仰ぐ。 冷たくて弱弱しい陽射しなのに、ちょっと眩しくて瞼を閉じる。 「付き合っても、初めはどうでもいい…っつったらアレか。まあ、相手は好きでもねェ女だろ。彼女としては扱うけど、手は出さない。で、向こうは俺に好かれてないってのは分かるわけだから、焦って体で繋ぎとめようとしてくんだよ。 それが大体、2~3ヶ月中」 「それが面倒で、別れようって言うの?」 「面倒っつか、無理。そう言う女」 「俺にはその場でキスしたくせに」 「キスはすんだろ、試しに。キスも出来ない相手と付き合えるか?お前なら」 「2日目に手ぇ出した」 「お前の身体、触ってると気持ちいいんだよ。反応もいいし」 腰のラインから脇腹を撫で上げて、斗織は満足そうに微笑む。 俺の目がうっとりしちゃったから、嬉しくなったの? 俺は、…斗織に触られてるから、こんな風になっちゃうんだけど。 斗織じゃなかったら、こんなに気持ちよくならない。 斗織も、俺以外に触っても気持ち良くならない身体ならいいのに。 「ほら、俺の手に吸い付いてくるだろ?」 ここも、ここも…って、ほっぺと唇を順に、指先でふにって押された。 「吸い付く…?」 「お前の肌…つか、身体?…って!待て!遼、ステイ!」 目の前に差し出された指を口に含んでチロチロ舐めてたら、 突然スポンと引き抜かれた。 「ぁ……」 「あ、じゃねェ、話の途中。お前、快楽に弱すぎっだろ」 「だって…斗織に触れてるトコぜんぶ、きもちいいんだもん。手も、唇も、口の中も。俺、ちゅーしたい」 「はっ?あー……、話が終わったらな……」 顔、逸らされた。 やっぱり斗織、俺のこと好きじゃない…。 好きじゃなくても手は出すんじゃん。 それってもしかして俺が男だから? 男だったら、キズモノにされた、なんて文句言われないだろうって、高をくくってる? むしろ男だからこそ、男に抱かれたなんてこと、大変な汚名になっちゃうと思うんだけど……。 「なに泣いてんだよ。話聴けって」 肩を抱き寄せられて、今度はそっち側から手が握られた。 頭を撫でる手がやけに優しくて、恨めしい。 「言っとくけど俺、ホモじゃねぇぞ。前は好きな女もいたしな」 「別に、どっちでもいいです…」 好きな女がいたかなんて訊いてないし。 いたとか聞きたくないし…。 ………ばか。 「けどな、付き合った奴の中じゃ、可愛いって思ったのも、独占欲感じたのも、手ェ出してーって思ったのも、お前が初めてだった」 「……付き合った奴の中じゃ…?」 「………っせーな。生まれて初めてだよ!」 うっ……、なんで急に怒鳴んだよ。 今まで静かに語ってたくせに。 そういうこと感じたとか言ったって、結局俺のことなんてどーでもよかったくせに! 「じゃあなんでうち来ないとか言ったんだよ」 「その後、機会があればっつったろーが」 「そんなの断わってんのと変わんないじゃん」 「テメェが拒否ったんだろが。イチャイチャさせろっての拒否っといて、よく言えたなテメェ」 「だって、えっちなことされちゃうって思ったんだもん」 「するだろ。二人っきりだぞ。邪魔入んねーんだぞ」 「初めては!…好きな人じゃなきゃやだと思ったんだよ!」 「はあっ!?じゃあ好きな奴と勝手にヤれよ!」 「だから!斗織じゃなきゃダメなんだってば!」 「……遼? 俺 今、ほんっきで訳分かってねェぞ?」 眉間にシワを寄せて、髪をグシャって掻きあげる。 顔、怖いし。 俺のこと、全然わかってくれないし…… 「やっぱり斗織なんてもういい!俺、初恋なんだもん~っ、恋か恋じゃない好きかなんて、わかんなかったんだもんーっ」 「おま…っ、そんな恥ずかしいこと…っ」 「ほらっ、恥ずかしいとか言うっ!一刻も早く別れる~~っ」 「誰が別れるか!ほら、キスすんだろ」 まず鼻をかめ、って、ティッシュを鼻に押し付けられた。 鼻をかみながら顔をこっそり見つめると、プッと吹き出された。 「お前、コンタクトじゃなくてよかったな」 「お陰様で、視力は良いんで」 「泣き虫にコンタクトじゃ、幾つ無くすか分かったもんじゃねェもんな」 「俺、もう何年も泣いたことなかったんだけど」 「はいはい」 「ホントだからね!?」 「はいはい」

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