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第62話 お弁当

マナちゃん先生が座ってたイスに移動して、まだ熱いミルクティーをフーフー冷ます。 そろそろいいかな? マグカップに口を付けて、 「あちっ」 すぐに遠ざけた。 氷欲しい…。 「お前、猫舌?」 「うん」 「舌、出してみ」 火傷してるか見てくれるのかな? そう思って舌を突き出すと、 「……んぅっ」 唇ではむ、と挟まれて舌先をペロリとやられた。 「………えっち」 「俺、遼にえっちって言われんの好きかも」 頬杖を突いて覗き込まれる。 ……そんな愉しそうな顔で見るんじゃないっ。 「飯、食うか」 「……そうですね」 もぉっ、俺が怒ってんのとか全然気にしないんだから。 マイペースって言うか、セルフィッシュって言うかさ。 お弁当の蓋を開けると、斗織の表情が見てわかるぐらいに綻んだ。 嬉しい…のかな? 美味しそうに見えてるかな? 味も、喜んでもらえるといいんだけど……。 「いただきます」 「あっ、いただきます」 俺も慌てて蓋を開けて、斗織に倣って手を合わせる。 箸を持って、サラダに手を付けようとして、……でも、やっぱり気になるのは自分のお弁当じゃなくて斗織の反応。 「ん、やっぱり美味いな。お前の玉子焼き」 玉子焼き、合格点。 それから斗織は生姜焼きに箸をつける。 やっぱり男子高生は肉だよね。俺も肉、好き。 「……どうですか?」 「ん?肉柔らかいな」 「味は?薄くない?濃くない?」 「旨いし丁度いい。つかお前、俺のことばっか気にしてねェで自分もとっとと食っちまえよ。6時間目は授業出たいんだろ?」 「あっ、うん!食べる!」 「あー、焦って食うな。まだ時間あるから。喉につっかえるぞ」 それでもやっぱり斗織の反応は気になって、こっそり見つめながら箸を進めた。 こっそり、のつもりだったんだけど斗織にはしっかり気付かれてたみたいで、食べ終わった後、 「俺をおかずに弁当食ったのか?」 笑いながら喉を爪でやんわりと擽られた。 「んっ……やぁん」 「はいはい、 校内での不純異性交遊禁止ね」 斗織からバッと距離を置く。 戻ってきたマナちゃん先生が、不機嫌そうに眉根を寄せていた。 「あ、男同士だから不純同性交遊か。どっちにしろ、授業サボっての保健室でのイチャイチャは禁止だからな。淋しい独り身の前で、コロすぞテメェ」 斗織に投げかけられた言葉は口調こそ軽いが、非常に過激なものだった。 「しません!」 手を上げて宣誓する。 「あ、いいのいいのリョー君は。君はされちゃう方でしょ。こういうのはする方に注意しときゃーいいの。誘われたって男が手ぇ出さなけりゃなんも起こんねーんだから」 一理ある。けど、それでいいのかなぁ? 「飯食い終わった?じゃあ、誰か来たらマズイから一応ベッドの方行っといて」 「はぁい」 「へーい」 「って斗織!テメェ言ってる側からなにリョー君にちょっかい出そうとしてんだよ。別のベッドに入れ」 「なんもしねーし」 「信用できるか!なんかテメェ、今回は今までの女の子たちと扱い違うっつーか、見る目違ぇーっつーか」 「女より可愛いんだよ。しゃーねェだろ」 「いや、…いやいや、お前さぁ!」 仲良しだなぁ。 楽しそう。ふふっ。 授業中、具合が悪いわけでもないのにベッドに横になって、布団を被って。 罪悪感が無いわけではないけど。 泣いた疲れと、昨夜の寝不足のせいか、俺はいつの間にか本当に眠りに落ちていて………… 5時間目が終わったと声を掛けられるまで、…ううん、目覚めのキスを仕掛けられるまで、すっかり熟睡してしまっていたのだった。

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