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第64話 下手くそな嘘
今日から試験前につき、部活動全面禁止。
放課後の下校風景の中、斗織とリューガくん、中山に級長、皆揃って駅へ向かう。
教室を出る前に級長が髪を直してくれたから、朝からのアホ毛もすっかり落ち着いてる。
級長ってやっぱり級長やってるだけのことあって、面倒見がいいよね。
「今日から放課後校内残れないしさぁ、家帰ったらベンキョーさせられっしさぁ。…ちょーっヒマッ!」
普通の会話しながら歩いてたと思うんだけど……。
リューガくんが突然うがーって叫んで頭を抱え込んだ。
せっかく部活もお休みなんだし、先生たちも環境整えてくれてるんだから、ありがたく試験勉強すればいいんじゃないかなぁ?
「あ、なぁトオル、今日家行っていい?」
「今日無理。毎週木曜はお弟子さん来るっつってんだろ」
リューガくんの誘いに、斗織が間髪入れずに断りを入れる。
お弟子さん…だって。
そう言えば斗織、茶道の師範免許持ってるって言ってたっけ。茶道、教えてんのかな?
「羽崎先生?」
顔を覗きこむと、ばーか、とおでこを突付かれた。
「でも、すごいね。ほんとに先生やってんだ」
「小中学生相手にな」
小中学生の……女の子中心なんだろうな。
茶道部の活動風景を思い出して、そう思う。
いいなぁ…、着物の斗織かっこいいから、女の子たちも思わず見惚れちゃうんだろうな。
「俺も教えて欲しいなぁ」
後ろから抱え込むようにしてお茶点てるの教えてもらうとか、さ。
ちょっと憧れる。……って言うか、いいじゃん、そういうシチュエーション。
って、級長に感化され過ぎか。
でも、そんなのを俺以外にやってんのかなって思うと、ちょっと淋しい気もするし。
だって、一応今、斗織の恋人は俺なんだよ。
斗織がどう思ってるかなんてわかんない。女じゃなくて子供だって言うかもしんないし。
でも、小中学生だって、相手女の子じゃん……。
斗織のお仕置きが欲しくて、わざと出来ないフリしちゃう子だっているかもだし。
「……あっ!でも大丈夫!俺には難しいからっ」
「なに1人で慌ててんだ、お前は」
頭をぽすんって、呆れたように撫でられた。
斗織の向こう側で、級長が意味深に笑みを零す。
……そうです。アンタに借りたBLマンガのせいで慌ててるんですよ、級長。
お仕置き、痛いのやだもん。
「んじゃーさ、リョーちん!」
リューガくんが目の前にピョン、と現れた。
「今日リョーちん家行っていい?ベンキョー教えて」
「却下!」
いいよ、と快諾しようと口を開いた瞬間、言葉をねじ込まれた。
「なんでトオルが断わんだよ!」
ほんと、なんで斗織が断るんだろうね…。
「うちなら平気だよ。たまには誰かと夜ご飯食べたいし」
「わかった。明日行ってやるから今日はこのまま帰れ」
いや、別に俺から誘ったわけじゃないのに、なんだその、言い聞かされてる感は……。
リューガくんは呆れたように斗織を見上げて、そして眉尻を下げて溜息を吐いた。
───そうだ……。
不意に思い出した。
昼休みに斗織とあんなことがあって、俺はそれで総てが上手く行ったような気になっていたけど……。
それでも、中山が斗織のことを好きな事と、リューガくんが俺達の仲を快く思っていないって事実は、なにも変わってないんだった。
「あのっ……俺、忘れ物取ってくるから、先帰って!」
学校へ引き返すフリをして、このまま皆と別れよう。
そう思って踵を返した瞬間、斗織に手首を掴まれて、引き留められた。
「何忘れた?」
「えっ…と、あの…英和辞典?」
「なんで今このタイミングで思い出せんだよ」
「カバン軽いから、かな?」
「へえ……」
俺は、嘘が下手くそらしい。
「えっと、…色々と思うところがありまして……」
「だろうな」
だろうな、って言うんだったら、離してくれないだろうか。
「斗織…行かせて?」
掴んでくる手をそっと握ってお願いする。
「っ…おまっ……」
何故か、斗織の顔が赤く染まった。
なんでソコで赤くなるんだろう…?
斗織は気まずそうに顔を逸らして頭をガシガシ掻いてる。
俺は斗織がそうしている意味も、離してくれない意味もわからなくて、
「…とおるぅ……」
不安が胸に湧き上がってくる。
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※遼司は級長の入れ知恵により、茶道を少々誤解しています。茶道教室では実際そのような指導はしておりませんのでご了承下さいm(_ _)m
斗織の母方は、代々続く小さな流派の家元です。
お教室は、小学4年生から中学2年生まで、中学3年生から高校生、それ以上もレベルによって幾つかのクラスに分かれています。
斗織は年少者クラスを担当しています。お弟子さんたちが憧れる『カッコいい先生』です。
実はリューガの家も道場で祖父が師範だったりするのですが、それはまた、次の機会に。
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