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第65話 師匠 or お兄ちゃん

「では羽崎君、こうしましょう」 級長が、ズイッと顔を覗かせた。 「僕は小腹が減ったので、ファーストフード店に行きます。柴藤君、付き合ってください」 「えっ?はい」 頷くのが当然であるかのような誘導に乗せられて、俺はすんなり級長からの誘いを承諾した。 「それから大豆田君。勉強ならば間食後、常に成績トップの僕が見てあげます」 「えっ、マジで!? じゃあオレもポテト食う!食って待ってる!」 「では、離れた席で食べてくださいね」 「えーっ!一緒に食やいいじゃーん、なんでだよぉっ」 「なんでもです」 級長中心に、話がどんどん進んでいく。 ついてけてないのは俺だけじゃないみたいで…… 「羽崎君と中山君は帰るなり待っているなりご自由にどうぞ」 「えっ、えっ?じゃあ、俺も柴藤と一緒にっ」 「僕たちの半径10m以内に近寄らないよう」 「えっ、なんで!?」 「なんなら100mでも構いませんが」 「イヤだよ!なんで10倍に増えてんだよ!」 中山は訳わからなくて叫んでるし、斗織は渋~い顔して級長のこと睨み付けてる。 でもそんなの級長はお構いなしで、行きましょう、と一言。俺の手首を掴んで歩き出した。 行先は、そこから十数歩のファーストフード店。 「んじゃ、オレ達もいこーぜ」 リューガくんに引っ張られて、後ろから斗織と中山もついてくる。 「あの……級長?」 級長はカウンターでコーヒーのMを頼むと2階へと上がっていった。 無糖のアイスティーの乗ったトレイを掴み、慌てて後を追う。 級長は2人掛けの席の通路側に座り、俺を待っていた。 隣の席にはちょっと騒がしい感じの女の子たち。 店内には、暇を持て余すうちの生徒たちが結構な割合で席を占領していた。 「さて、話を聞きますよ」 俺が正面に腰を下ろすと、級長は眼鏡のブリッジを指で押し上げながら愉しそうに微笑んだ。 えと……やっぱり、昼休みの話とか、しなきゃいけないんだよね……。 確かに、級長には応援もしてもらって、男同士の恋愛についての指南もしてもらってる、云わば師匠のような存在でもあり……… 師匠に、お陰様でこれだけのことが出来るようになりました、って報告するようなもの? じゃあ、ちゃんと話すのが筋なのかな…? 「えと……、しました」 「しました?」 ニコニコ顔のまま、首を傾げられる。 「あの……昼休みに、…前、だけ…お互いに…?」 「?………!ああ、なるほど」 分かってくれたかな? 人の多いとこで話すと聞かれちゃうかもだから、あんまり詳しく話せなくて、伝えるのも難しい。 斗織たちは……?と店内を見渡すと、窓に向かったカウンター席に並んで座ってる姿が目に入った。 これなら、3人にまでは声は届かないだろうけど。 「あの…ね、独占欲感じたり、手、出したいって思ったのも、俺が生まれて初めてだって、言ってくれました。……俺も、これが初恋です」 顔を寄せてこそっと伝えると、笑みを深くした級長が頭を優しく撫でてくれた。 「よかったですね」 「うん」 師匠って言うより級長、お兄ちゃんって感じだ。 俺には男兄弟いないし、今や一人っ子って感じだけど、優しいお兄ちゃんが居たらこんな風に恋愛相談とかも聞いてくれるのかなぁ。 いいなぁ、お兄ちゃん。 へへっと笑って、冷たい紅茶に口をつける。 本当は冬は寒いからあったかい飲み物のがいいんだけど、こういうお店のカップは保温性高く作ってあるから、猫舌の俺はいつまで経っても中々冷めない熱い飲み物を飲むことができない。 斗織も級長も、あっついまま飲めて凄いなぁって感心する。 確か、猫舌じゃない人って、舌の使い方が上手なんだっけ。 斗織の舌……確かに気持ち良かったよね……。 級長もちゅーするの、上手なのかな? BLの本でも受けの子のこと可愛いって言ってたし、級長も攻めの人? そう言えば、この後リューガくんに勉強を教えてあげるって…………うわわわっ、もしかして、あの本にあったように、違う勉強も教えてあげちゃうの?! 級長、リューガくんのこと『貴重な受け要員』って言ってたし! 級長、もしかしてリューガくんのこと好きなのかな……? だったら俺、応援したい!

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