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第66話 ヤキモチ
ドキドキとして、ついそんな熱い目で級長に見入ってしまったんだろう。
コーヒーのカップをテーブルに置いた級長に、随分と楽しそうですね、と微笑ましげに見つめられた。
「想いが通じ合い、幸せだ。僕と話していても楽しい。では一体、君は何を憂いているのでしょうか?」
「憂いている…?」
首を傾げると、瞳を覗き込まれる。
「違いますか?」
「……違…わ…ないかも…」
……いいのかな。話しても。
俺のことだけじゃなくて、2人の気持ちまでも伝えてしまうことになるけど。
だけど級長は勘が鋭いから、2人の想いにももう、気付いているのかもしれない。
俺達の関係性を知った上で、声を掛けてくれたのかもしれない。
しれない、だけで、確定している訳じゃないけど……
俺は、それが確かなものであれば良いと、そんなことを勝手に思いながら、口を開いた。
「俺、りぅがくんに…嫌われてはないと思うんだ」
「ええ。僕もそのように思いますが?」
級長がそう思うってことは、ほんとに嫌われてはいない?
リューガくんは多分、嫌いな人に対して、嫌いじゃない、なんて演技する人じゃないと思う。
だから、きっと俺は嫌われてはいないだろう。
…とは思うんだけど、それがただの願望じゃないとは言い切れないわけで。
だって、親友の恋人嫌いって言って、それで友情よりも恋愛取られたらって考えたら、嫌いじゃないフリしちゃうことだって……。
リューガくんに限ってそれは無い!って断定できる程、俺は付き合い長くもないし、彼のことを良く知っているわけでもない。
どうにも女々しいけど、誰かに「そんなことない」って言ってもらえると、やっぱりそうだよね!って。
それが級長なら尚の事、心強い。
「でも、友達の…斗織の恋人が男って事にはやっぱり、反対だと思うんだ。そりゃあ、フツーに引いちゃうよねぇ」
「そうですか?僕なら大歓迎ですが」
相談相手、間違えた──!!
「と冗談はさておき。そんなことも無いと思いますよ」
キラリと光った瞳を眼鏡で隠し、級長は首を捻り、リューガくんの後ろ姿を仰いだ。
「確かに親友に同性の恋人が出来れば、それは衝撃的なことだと思いますが。
彼の場合は、嫌悪していればハッキリとそう告げるでしょう」
「う、ん…。そうなんだけど……」
そうは思うんだけど……
「今までは無かった、羽崎君の甘い言葉や雰囲気が、素直に気持ち悪いと思うのでしょう。本人にもそう伝えていますし」
「…そう、かなぁ…?」
「男であれ女であれ、相手の性別は関係ない事だと思いますよ。大豆田君が気持ち悪いと感じているのは、羽崎君自体。彼の態度や表情なのですから」
「え、…えぇ?」
そんな、ハッキリ、斗織のこと気持ち悪いとか………
「あの、…斗織は格好良いので、気持ち悪くはないと思います…」
「惚れた欲目ですね」
ほのぼのと微笑まれてしまった。
惚れた欲目、なのかなぁ?
背ぇ高くて、黒髪で、大人っぽくて、顔も整ってるし。
見た目だけでも充分なのに、立ち振る舞いまで凛然としてる。
すっごくすっごく格好良い!と思うんだけどなぁ……。
「それから、中山君ですが」
「えっ?りぅがくんのことは?」
「気になるなら、後でそれとなく訊いておいてあげますよ」
後で───勉強で二人っきりになった時に訊いてくれるってこと?
お願いします、と頭を下げると、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、と下げた頭を撫でられた。
「それで、中山君ですが、やはり鬱陶しいですか?」
「えっ……どうして!?」
思い掛けない級長の言葉に、思わず声のボリュームが上がってしまった。
隣の席の子たちにガン見されて、慌てて掌で口を塞ぐ。
大して気になったわけでも無いようで、彼女たちはすぐに自分たちの話に戻っていった。
「俺、鬱陶しいなんて思ってないよ」
声を抑えて級長に訴える。
「むしろ、有難いって思ってる。俺、結構冷たくあしらってたのに、懲りずにずっと仲良くしようとしてくれてて」
「まあ、ある意味健気ですね。みっともなくしつこいとも言いますが」
にっこり笑っている筈なのに、言ってることはブラック。
そんな級長が不思議で思わずじーっと見つめちゃってると、
「そんなに熱く見つめられたら、羽崎君に焼かれてしまいます」
冗談を言いながら、級長は楽しそうに笑った。
独占欲……って言ってたけど、級長相手でもヤキモチ焼いてくれるのかなぁ、斗織。
級長に、リューガくんや中山も、友だちだもんね。ヤキモチの対象じゃないよなぁ。
「だいじょぶじゃないかなぁ…」
「大丈夫じゃないですよ」
級長が笑いながら指先をクイッと窓側に向ける。
カウンターの椅子を90度回して顔だけこっちに向けた斗織が、ギンと鋭い眼光で級長の姿を捉えていた。
睨まれた方は、それが可笑しいみたいで声を殺して笑ってるけど、かなり兇悪な面構えだ。
だけど俺にはそれすら、かっこよくて可愛く見える。
斗織、ヤキモチ焼いてくれるんだ……。
そう思うと嬉しくて、ヘラッて笑って小さく手を振った。
斗織は額を押さえて、はぁ───っと息を吐き出した。
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