突然のことに、ドキドキ半分、ワクワク半分で級長を見つめていると、 「やはり率直に、今のうちに訊いておきましょう」 何故か級長は俺をちらりと視界に映し、改めて口を開いた。 「君は、紫藤君が羽崎君と付き合うことに嫌悪感を覚えていますか？」 「きぅちょ───っ!!」 「はぁ～？なんだソレ？」 リューガくんは眉根を寄せて、頭をガシガシと掻いた。 「そんなこと、訊かなくたって分かるだろ。当たり前だっつーの！嫌に決まってんじゃん。男同士とか超キメェ」 きっとそう……。続く言葉を想像して、思わず顔を伏せる。 分かってても、面と向かってそう言われる事は、やっぱり堪え難い。 だけどリューガくんはなんて事無い、嫌悪なんかちっとも篭もってない声で、 「リョーちん可愛いから、いんじゃね？」 何でも無いことのように言い放った。 「え……？」 徐ろに顔を上げると、低いところから伸びてきた手に、頭をポンと撫でられた。 「そんなこと気にしてたんかよー、リョーちん。そーゆーことは、直接オレに訊けよな～」 見つめ返すと、ニカッと笑ってくれる。 「……いいの？俺…、やじゃない…？」 「やだったら仲良くしねーっつの。オレ、今までのトオルのオンナと一緒に遊んだりしてねーもん。リョーちんだからツルんでんじゃん」 「そんなことで悩んでたのか、テメェは」 溜息を吐いた斗織から、頭を強めにコツンとやられた。 「一人でクヨクヨしてねェでさっさと俺に言え。他のヤツに相談してんじゃねェよ」 舌打ち交じりに窘められる。 「オレがやだなーって思うんは、トオルがデレデレしててキショいからで、でもそれってリョーちんのせいじゃねーじゃん？」 「誰がキショいって？」 俺に当てたより強い力で、斗織の拳がリューガくんの頭頂部を捉えた。 リューガくんは頭を押さえて、痛ってぇーーっ!!とその場にしゃがみ込む。 「それだけじゃないですよ」 少し屈んでリューガくんの頭をナデナデしながら、級長は更に続けようとする。 なんとなく、問題解決、ハッピーエンド気分になっていた俺は、その言葉に慌てて級長の口を押さえた。 「それはっ、俺だけの事じゃないから！」 その言い方が悪かったのかもしれない。 「遼……？」 斗織の目尻がとんがって、俺の目を捉える。 「えと…、その、ね……？」 「中山君は羽崎君に片想いしてるんですか？」 「きぅ───」 「はあぁーっ!?」 口から掌が外れた瞬間だった。 止めようと伸ばした手は斗織に止められて、級長の言葉が終わった直後、中山が大音量で叫んだ。 「なんでっ!?どうしてそうなんの!!?」 道行く人が、何事かと俺達の方を振り返る。 リューガくんは一人大笑いしながら、うるせーよ、と中山の頭を叩いた。 斗織は額に手をやって、また大仰な溜息を吐き出す。 「中山君は羽崎君に恋をしていて、紫藤君のことを邪魔に思っている、と僕は聞きましたが」 「誰からっ?!」 中山、泣いちゃいそうだ。 みんなの前でバラされたから、どうしたらいいかわからないんだ。 「紫藤君からです」 「紫藤～～～っ！！」 「ごっ、ごめん、中山っ！俺、きぅちょうにだけ相談したつもりで、中山の気持ちバラすとか、そんなつもりなくてっ」 でも、そんなつもり無くっても、今こうして中山の気持ちは本人の意図とは別のところで周知の事実になっちゃって…… 「ごめん。本当に、ごめんなさい！」 俺まで、涙出てきた。 「いや、バラすとか、違くて、…いや！そもそも俺、羽崎のこと好きじゃないし！」 「え？な、なんで!? 斗織、かっこいいよ!?」 「いやっ、俺、羽崎のこと格好良いとか思ってないし、もし万が一思ったとしても、未来永劫、天地がひっくり返ったって絶対好きになんてなんないし!!」 なんでそこまで………ってほど否定して、それから、中山は荒く乱れていた息を整えた。 「俺の好きな子、格好良いじゃなくて可愛いタイプだから…」 顔を背けながら、ぽつりと呟く。 斗織にも時々、かわいいなってきゅんとする瞬間がある。 でも、それより斗織は『かっこいい』。 中山が斗織のかわいい部分に気づいたら好きになっちゃうかもしれないけど、今はまだ、好きじゃない……？ 「ほんと…に？」 「逆に、なんでそんな勘違いすんの？って感じ」 肩を竦めた中山は、拗ねたみたいに口を尖らせる。 「……じゃあ、俺、斗織のこと、好きでいていいの？」 「そもそも、こいつらに遠慮してる意味が分かんねェよ」 斗織は不機嫌そうに、チッと舌打ちをした。 「羽崎君、此処では目立ち過ぎるので自重して下さい。一個人としては是非に、とも思いますが」 「トオル、やめとけよ」 それを見た級長とリューガくんが、なんの事か斗織を止めてる。 2人の言葉の意味はわからなかったけど、斗織は理解したようで不機嫌に眉根を寄せた。 斗織がちょっと怒ってるのは表情で分かるけど、だけど俺は、これからはなんの問題も無く斗織と付き合っていけることが嬉しくて─── 「斗織……」 名前を呼んで、その手を両手で握りしめた。 「とぉるーっ、すきっ」 見上げて、えへへと小さく笑う。 こんな直接的な告白は、やっぱりちょっと、恥ずかしい。 「斗織は？俺のこと、すき？」 背伸びして、なるべく目線を合わせるようにして訊ねると、斗織はなんでか級長とリューガくんを流し見て、グシャグシャって自分の頭を掻き混ぜた。 俺の方に視線を戻さずに歩き出すから、慌てて追いかけて、その腕を掴まえる。