69 / 418
第69話 大切にしてね
「───好きに…決まってんだろーが」
ボソリと、呟くように伝えられた。
「俺のオンナだっつったの、忘れたのかよ」
耳が赤い……。斗織、照れてる?
「ううんっ。忘れてないよ」
しがみつくみたいに、腕にきゅっと抱き着いた。
「ねぇ、斗織~っ。明日うち来たら泊まってく?俺、夜いつも淋しいから…」
「あー、わかったわかった」
「ほんと!?うれしい!じゃあ夜ご飯何食べたい?」
「オレ、ハンバーグがいい!リョーちん、オレも泊まり行っていい?」
リューガくんが俺の肩に伸し掛かってくる。
「うん!ハンバーグね。デミソースかイタリアンかなぁ?おろしポン酢もいいよね~。5人いるなら鍋でもいいかなぁ。煮込みハンバーグとか!」
「…テメェは見られながらヤラれてェのか……」
「えっ?……えぇっ?!」
とっ、とーるがっ!突然変なこと言ってきた!!?
「どっ、どういうことっ!?」
「俺の事好きなんだろ?付き合ってんだろ?」
悟れ!って表情して、見据えられた。
た…確かに、付きあおうってなったその場でキスしちゃったし、2日目であんなことしちゃったし、今日も屋上で……
でも、俺たちまだ付き合って一週間も経ってないし!
3ヶ月で別れること考えたら、急いで進めちゃいたいのかもしれないけど、でも………
「俺、斗織に触られたら気持ち良くなって全部許しちゃうから、2人じゃダメ」
「…………訳分かんねェ」
「だから、斗織が身体から発してる電波が俺の体に合いすぎてて、触られると何も考えらんなくなって、斗織に全部委ねちゃいたくなんの!」
「別に…いーんじゃねェの?付き合ってんだから」
斗織がポツリと呟く。
視界の端で、リューガくんが顔を赤く染めて、中山の顔は反対に青くなった。
級長は口元を緩ませながら、スマホを取り出して何か超高速で打ち込んでる。
もしかして俺、腐男子を喜ばせるような変な事、言っちゃったんだろうか……?
斗織は付き合ってんだからって言うけど、でも、俺の気にしてるのはそこじゃなくて。
「付き合って数日で全部捧げちゃうとか……俺、そんな軽い奴って思われたらやだよ。…処女だし、ドーテーだもん。大切にしてくれなきゃ、やだ」
ブハッて堪え切れずに吹き出したリューガくんが頭を抱えた。
笑ってる…わけじゃないのかな…?
動揺させちゃったみたい。
級長がリューガくんの気持ちを落ち着かせるように、その肩をポンポンと叩いてる。
「……言っとくけど、俺も、…初めてだからな」
「はああっ!?」
当たり前の斗織の言葉に、大声で反応したのは中山だ。
男相手が初めてなんて、そんなにビックリするようなことでも無いだろうに。
やっぱり運動部だから、普通に驚いても人より大声になっちゃうのかな?
「……尻軽とか思わねェし、明日は、2人にさせろ」
大切にするから…って囁きは、きっと俺にしか聞こえなかったと思う。
「大豆田君。君さえ良ければ明日も勉強を教えて差し上げますよ」
「えっ、なんで?」
級長の誘いに、リューガくんが頭上に“?”マークを浮かべた。
多分級長、俺達のために申し出てくれてるんだ。
「冬休みを補習で潰したくはないでしょう? 僕が教えた生徒に、赤点は取らせませんよ 」
「そりゃあ……けどオレ、赤点取るほど成績悪くねーよ」
「では、全科目10点から20点はアップさせましょう」
「級長、俺も良い!?」
「えっ…」
突然切り込んだ中山に、思わず声を上げたのは俺だった。
「な…なんで紫藤がイヤがんだよーっ」
「あ、ごめん…。嫌がったんじゃなくて、ちょっとびっくり」
ほんとは、級長がリューガくんと二人っきりになれるチャンスが中山に邪魔されちゃう、って思ったんだけど、それは内緒。
「俺、英語系と数学系ヤッバイの。頼む、級長!教えてくれ!」
「ええ。構いませんよ」
「ええっ!?」
「だから、なんで紫藤がイヤがんの!?」
「あ…、ごめん」
いいんだ、級長。
初めはグループ内で仲良くして、友達から恋人にスライドさせてく作戦なのかな?
「うーん…、じゃあオレも、文系教えて。オレ、理数は強いんだぜー」
「へぇ。意外です」
「だろー?……って、なんでだよ!」
話は纏まった、のかな?
「遼は俺と2人で勉強だからな」
斗織が耳元に口を寄せて囁いた。
「えっちなことも…教えてくれるの?」
コートの袖を引っ張りながら訊くと、優しい顔で苦笑する。
「試験勉強教えんのはお前な?」
「はい!」
元気に返事して、腕にぎゅっと掴まる。
斗織は反対側の手で、頭をナデナデしてくれた。
明日、ご飯何作ろうかな…?
斗織の好きなもの、リサーチしなきゃ!
見上げると、目が合った。
思わずふにゃって、だらしなく笑っちゃう。
「よし、じゃあお前ら駅まで送ってやる。中山、俺今日いないけど、電車ん中でリョーちんたちのジャマすんなよ!」
明日の約束も済んだらしくて、リューガくんが先頭切って歩き出した。
中山はちょっと不服そうに、分かったよ…と返事して後に続く。
「羽崎君、男同士にはゴムとローションが必須です」
通りすがりに級長が小さな声で斗織に告げた。
「……アイツ、何?」
斗織の顔が引きつってる。
「え、と……よいこの味方?」
腐男子ですとは言えなくて、適当に返事した後俺は誤魔化すように、斗織に向けてへらっと笑った。
ともだちにシェアしよう!