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第72話 偶然の遭遇

【斗織Side】 兄貴にカミングアウトした翌日金曜日、俺たちは6時間の授業を終え、早々に学校を後にした。 一度家に帰って泊まりの用意をしてから、待ち合わせの場所へ向かう。 先に着いていた遼が、俺に気づくと嬉しそうに大きく手を振った。 軽く手を上げて、足早にそちらへ向かう。 ………つーか、ちょっと待て! なんだあの服装は!? 白い綿帽子みたいなダッフルコートに、ブルーのタータンチェックのパンツ。 寒いのか、フードを少しだけ頭に被せて、なんだかまた妙にフワフワしてやがる。 アイツが男だってことに気づいてないのか気付いていても、なのか。通りすがりの他校生(当然男)から熱い視線を向けられてる。 アイツ、1人で置いといたらホント危ねェな。 俺は見せつけるように、遼の頬を両手で挟むと顔を近付けて囁いた。 「大分待ったか?冷えてる」 ほんのり赤く染まった頬が熱を持つ。 「ううん、大丈夫。今来たとこ」 「手袋しろって言っただろ」 「…うん……」 もの言いたげに見つめ上げてから顔を伏せたから、ああ、そうなんだろうな、と思い当たる。 夜に出掛けることがあればと、一応ポケットに忍ばせてきた手袋の、左側だけを遼に渡した。 「それ、着けとけ」 「うん、ありがと」 素直に受け取ると、不思議そうな顔をする。 「斗織、右手のは?」 「右手は、いらないだろ」 手袋を着けていない方の手を攫って、自分の手ごとコートのポケットに突っ込んだ。 「ふわわっ」 遼が、妙な声をあげながら見上げてくる。 「どうした?」 朝と同じの、これをやって欲しかったんだろ? 分かってるよ、と想いを込めて見つめ返すと、さっきよりも濃く、頬が赤く染まった。 「……えと、ね…、嬉しくて、恥ずかしい……けど、やっぱり嬉しい」 ふにゃりとはにかんで、ポケットの中、手を握り返された。 俺は、ここが地元で外だと言うことも忘れて、遼の顎へ右手を滑らせ、顔を寄─── 「ぅおーい、この野獣ーっ!」 聞きなれたその声に、動きを止められた。 思わずブスッとして振り返る。 ………やっぱりな。マナちゃんと、一也兄さんだ。 「あっ、先生…こんにちはっ!」 遼が勢いよく頭を下げた。 「こんにちはー、リョー君。リョー君も家この辺なの?」 「はい。駅から徒歩10分くらいのとこです。マナちゃん先生も?」 「いんや。俺はこの人のトコ遊びに行くの。今からおデート」 フザけてマナちゃんが腕に抱き付くと、一也兄さんは可哀想なほどに慌てて顔を赤くした。 この二人も、相変わらずだな。 「そちらの方は……マナちゃん先生のカレシさんですか?」 当たり前に訊ねる遼に一也兄さんは更に慌てて、マナちゃんのニヤニヤも加速する。 「そーよ。俺たち愛し合ってんの」 「とっ、寿也君っ?!」 「えーっ!一也さんは俺のこと愛してないの~!?なんだよー、俺の片想いかよ~っ」 「いっ、いやっ!そう言うことではなくっ!」 一頻(ひとしき)り反応を楽しめたらしく、マナちゃんはケラケラと楽しそうな笑いを引っ込めると、先生の顔をして遼の頭を撫でた。 「リョー君、斗織に嫌なことされたら、ちゃんと先生に相談するんだよ。主にエロいこととか、エロいこととか」 「え?」 きょとんとする遼の顔が可笑しかったのか、ぷくくっと吹き出す。 「あっ、それから、この人 羽崎一也さん。羽崎家の長男。斗織の、上の方のお兄さんね」 「えっ……えっ!?あっ、あのっ、柴藤遼司です!先生と弟さんにはお世話になっています!」 矢鱈と慌てた様子の遼に、何故か後頭部を押され俺までお辞儀させられた。 「ああ、斗織から話は聞いてるよ」 「えっ、そうなんですか!?……変なこと言われてませんか?」 「とても可愛くて料理がうまくて、同じ男とは思えないってことぐらいかな」 「えぇっ、なにそれぇっ!」 顔を赤くした遼が訴えるように俺を見上げてくる。 正確には『とても可愛い』じゃなくて『エロくてスゲー可愛い』って説明したから、その部分を省いてくれた一也兄さんに心の中で感謝する。 まあ、同じ男だと思って欲しけりゃ、そのフワフワした格好と上目遣いを改めろって話だよな。 兄さんとマナちゃんと別れて、スーパーに寄った。 デカい4階建てのとこで薬局も入ってるから、地下の食料品売り場に行くって言う遼に後で追い付くからと伝えて、夜必要になるものをそこで買った。 昨夜色々調べておこうとスマホを手にしたら、級長からメールが送られてきてることに気付いた。 タイトルは、『これが必要最低限の知識です』 そこには男同士のヤリ方ってのが簡単に書いてあって、読み終えたころ今度は『詳しくはこちら』ってメールが届いた。 詳細のあるURLが貼ってあるのかと思えば、級長お手製だと思われるヤリ方講座が事細かに、①雰囲気づくり、からビッシリ綴ってあった。 最後に、『残念ながら、これはただの知識であり、僕には経験がありません。臨機応変に、その時々の柴藤君の状況に合わせて接してあげてください。』と書かれていた。 ホントに、級長ってなんなんだよ……。 プッと吹き出してから、俺はまたメールの先頭へ戻り、有り難くその知識を分け与えてもらったのだった。

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