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第73話 先生の事情1

【マナちゃんSide】 外で夕飯を済ませてから、羽崎家へ向かった。 相変わらずでっかい屋敷だ。 白壁に囲われた敷地内には、正面の木製の門から入る。 武家屋敷か! 松の木を観ながら、真っ白な飛び石伝って御屋敷……いや、母屋だったな。そこへ向かう。 ここは、元々一也さんの母方の持ち家だったらしい。 次男のお父さんが入婿じゃないけど、マスオさん状態っての? それで家に入って、祖父母はその後、一也さんと大和が小学生だった頃に相次いで亡くなられたって話。 家に帰ったところで、中が広い所為か家族とは余り会わないらしい。 羨ましいってーかなんてーか。 その言葉通り、一也さんの部屋に行くまでに遭遇したのは、お手伝いのハナさん一人だった。 「寿也君、遠慮せずに寛いでね」 笑顔でそう言ってくれるから、座布団の上に腰を下ろした一也さんのすぐ横に座布団を移して、そこに座った。 「あの……、寿也君?」 「寛いでいいんでしょ?」 腕に腕を絡めて、その肩に頭をコツンと乗せる。 なんか、見なくても分かるぐらいにアワアワしてるし。 そう言えば、斗織とリョー君は人目も憚らずにイチャイチャし放題だったな……。 いいなぁ、考え無しのガキ共……羨ましい。 「斗織はさ、ずっとカノジョとっかえひっかえしてたけど、漸く本気になれる子見つけたって感じ」 一也さんの左手の指の間に自分の指を通しながら、ポツリと呟いてみる。 たとえ俺の話に興味が無いとしても、弟の話題なら聴きたくなるだろう。 「遼司君は、どんな子?」 ほら、食い付いた。 「俺も今日昼間に初めて会ったんだけどね、さっき見たまんま、可愛くていい子だと思うよ。養護教諭の勘。 それに、互いに好きって想いが溢れ出てるでしょ? 俺、斗織があんなにデレデレしてるの初めて見た」 羨ましいよね~。そう言って見上げるけど、一也さんはこっちを見てくれない。 ほんと、斗織のヤローが羨ましくて妬ましいくらい。 「まあ、ソレだけじゃなくて、ちょっと陰もあるかな。そういう陰の部分に惹かれちゃうんだよね~。男って単純だから」 俺は陰なんてカケラも無いから、あんまり気にしてもらえないのかな……? 片想いももう10年越し。 そろそろいい加減に決着つけたい。 「後ね、リョー君、凄く流されやすい子だと思うよ。斗織に振り回されなきゃいいけど」 「へぇ……。良く見てるね、寿也君。流石保健室の先生だ」 やっとこっちを見てくれた。 こんな歳───俺もう27にもなるってのに、一也さんに褒められることがこんなに嬉しい。 惚れてる相手…だもんなぁ…… ちょっとくらい甘えても───いいよな……? 腕にスリスリ頬を擦り付ける。 一也さんは居心地悪そうに、身をずらした。 ………ダメ……だってさ。 なら、逢えないか? なんて誘ってんじゃねーよ。 そんな電話くれたら、俺にも可能性あるかもなんて、思っちゃうじゃねーか。 そんなんで未練タラタラ10余年。 いい加減、疲れるっつーの。 「誰かさんも、流されてくれりゃー良かったのにな……」 それでもやっぱりまだ、未練がましく呟いて。 大きく息を吐きだしてから、一也さんから身を離した。 「んじゃ、帰りますんで。夕飯ご馳走様でした」 頭を下げて、立ち上がる。 「えっ…寿也君!?」 一也さんが慌てたように腰を上げた。 「あ、見送りいいですよ。玄関、ハナさんが鍵閉めてくれるでしょ」 肩に触れて押し留めて、ニカッと笑ってみせる。 「じゃあ、さよなら。一也さん」 踵を返して、襖を開ける。

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