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第74話 先生の事情2

【マナちゃんSide】 ほんとは終わらせるつもりなんか微塵もなかったんだけどさ…。 いつも通り、メシ食って、部屋でくっちゃべって……まあ、主に俺が。 それで、終電近くに駅まで送ってもらって帰る。 って、普通に過ごして「またね」って挨拶するつもりだったんだけど。 いやー…、やっべーな。あいつら見てたらさ、幸せラブラブ、羨ましくなっちまった。 くっついて嫌がられるのなんかいつも通リ、当たり前の反応だったんだけどな。 それに傷付くとか………俺は純粋な女子高生かっつーの! 遊んでる女子高生の方がよっぽど神経図太いってどんだけだよ。 座布団に押し戻したはずなのに、背後に気配を感じてサッと身を翻す。 俺の肩を掴もうとしていた手が空を切って、一也さんがバランスを崩した。 「はいはい、外科医が手ケガしたらマズイでしょ?気を付けなよ、おにーさん」 咄嗟に襟首を掴んで支えると、首が締まったのか足元から苦しそうな声が漏れ聞こえた。 「俺の背後取ろうとか、命が惜しくないのかい?」 軽い調子で言いながら敷居を跨いで、二人の間を分かつ襖に手を掛ける。 「っ…寿也君!」 今度はガッと、襖の内側に手を挿まれた。 「じゃあ、そこから見送ってください」 歩を進めようとすれば、屈み込んで足首を掴んでくる。 意外と乱暴だな、一也さん。 こんなことされたのは、初めてだけど。 「あの、歩けないんですけど」 一応、訴えてみる。 「俺、寿也君に何かしたかな?」 一也さんが必死な表情で訊いてくる。 「いえ、何も」 何も無い、いつも通りだったよ、貴方は。 「ただ、俺が疲れちゃったんで」 「金曜に誘ってごめんね!」 金曜って…! 本気か?この人。 まさか気付いてないわけもないだろうに、ハッキリ言わなきゃ、納得できない? 「違うよ、一也さん」 振り向いて、首を横に振る。 これで、ほんとにおしまい。 「俺が疲れたのは、一也さんに片想いし続けること」 「え……?」 「俺スゲー好き好きアピールしてんのに、一也さん全部スルーじゃん?躱して、躱して…さ、でも優しくして縛り付ける。 そう言うのに───疲れたんです!」 さっさと結婚でもしてくれりゃあ諦めもつくのに、30過ぎても独身貫いて。 家庭とか面倒臭いのかも知れないけどさ、アンタ一応長男だろう? ここん家、そう言うのスゲー煩そうじゃん。 早いとこ好きな女とっ捕まえて結婚しちゃった方が、よっぽど楽そうだ。 好きじゃなくても、お見合い話のひとつも来てんだろ? そう言う女と結婚して、子供作って。いいお父さんになりそうじゃん、一也さん。 そうしたら俺も、一也さんのことは綺麗さっぱり諦めて…… イイ女捕まえて…… 可愛い俺似の娘、とかさ……… 「え…と、……寿也君?」 「なんですか?もう放っといてよ」 イイ女程度で、今更満足できっかよ。 俺、片想い拗らせてんじゃん……馬鹿みてぇ。 「あの……片想いって…」 「ああ、そりゃ理解なんか出来ませんよね。俺、男だけど、アンタに惚れてたんですよ。気持ち悪いっしょ? だからね、もう会わないんで……俺のこと、構わないで欲しい。 だから、さよならだよ。一也さん」 「寿───」 「あ!でも男同士でも弟の恋はさ、認めてやってよ。多分アイツさ、初めて好きな人と付き合えたんだ。 俺にとっても弟みたいな奴だから、さ」 言いたい事は言い終えた。 足を離してと、もう一度お願いする。 でも、一也さんは手を離してくれない。 足首掴みっ放しって、そりゃあセクハラにならないか? って、俺は男だからそうはなんねーか。 「ずっと…片想いを、していて」 一也さんが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。 ああ、そうだよ。ずっとアンタに、片想いしてた。 くっついちゃあ、好き好きオーラ、スゲー出してた。 高校生の頃なら、俺なんかでも可愛かったんだろうな。 今じゃ27歳、立派なオッサン。 この歳で可愛いもクソもねーよな…と今更ながらに思う。 くっつかれたって、迷惑だったろうに。 それでも何度も遊びに誘ってくれたのが、奇跡だったんだ。 病院行きゃあ、白衣の天使が其処此処に溢れてんだろうしな。 俺もまさか、自分がそんな可愛い天使たちに敵うだなんて思ってたわけでもあるまいし。 ヤベー。自虐で泣けてきた。 「寿也君も、俺に片想いしてた……?」 も、ってなに?もって!? 可愛いナースちゃんにでも告られたってか。 それと比べて、こっちはねーな、とでも引いてんのか。 「っ───さっさと結婚しちまえ!馬鹿医者っ!!」 足を床にバァンと打ち付けて、力任せにその手を振り払った。

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