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第76話 先生たちの恋愛事情1

【マナちゃんSide】 結局、その時一回きりだ。 一也さんが俺に触れてくれたのは。 まぐわった訳でも無くて、ただ俺がイカしてもらっただけ。 まあ、真面目な人だからな。責任感、ってやつだったんだろう。 そんなこんなで、セーエキ飛んで汚れたとこ綺麗に拭いてくれて、その場でケー番&メアド教えてくれて、喉乾いたでしょう?って飲みもんくれて、親切に大和の部屋まで送ってくれた。 そんな、初めて会った同級生の兄ちゃんに発情しちゃった身体は兎も角、心は未だ純粋だったその時からずっと、一也さんが好きだ。 だから………だからさあ! 引き留めるために羽交い絞めとかさぁ、あんまりにも卑怯じゃないか!? アンタに触られると、触れられてるとこから力入んなくなってくんだよ、俺は。 仕方なく身を預けて、その肩に頬を寄せる。 温もりが気持ちいい。 いい匂いする…。 ヤバい…考えるの、嫌になってきた…… ずっと、こうしてたい。 今この瞬間に地球が消滅すれば、ずっとこのまんまでいられんのにな……。 けど現実は、当然そんなわけにもいかなくて。 俺を止めるためだけに抱きしめた───いや、羽交い絞めした手を離して、一也さんは大きく息を吐きだした。 「……言っとくけど、この期に及んで今まで通り友達付き合いとか……、俺無理だから」 そっちはどうか知らないけど俺は不可能だ、と目でも訴えて、一也さんから距離をとった。 一也さんは緊張した面持ちで、俺を見つめ返してくる。 「なら、……恋人には、なれないかな?」 「………………はあっ!?」 なっ、なんつった、今この人!? 俺が好きだっつったからか!? 一緒にいて、俺のこと繋ぎ止めておくためなら恋人のフリまでしようってか! 冗談にも程があんぞ?! 「フザケ───」 「俺も、好きだよ」 罵ろうとした言葉に被って、多分俺は、聞き違えたんだ。 はっ、と小さく息を吐いた俺の口を、長い指の腹が塞ぐ。 ───何も言わないで、話を聴いて。 瞳がそう訴えてくるから、口を噤む。 黙っていれば涙が零れ落ちそうで、唇をぎゅっと噛みしめた。

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