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第78話 ヨメの実家1
【斗織Side】
遼の家は、結構高いマンションの一室で、中は広いワンルームになっていた。
うちは平屋だから、こういう造りの家ってのも物珍しくて、ついキョロキョロと見回してしまう。
玄関と部屋の間にはパーテーションが置かれていて、俺の背があっても向こう側は覗けない。180ぐらいあんのかな。
背伸びすりゃあなんとか。
物の少ない殺風景な室内に、黒やら銀やら硬質なカラーの家具。
こいつのイメージと合わねェな、と思ってすぐ、父親と二人暮らしだったかと思い付く。
父親がこう言う感じが好きな人なのかもな。
転勤族で引越しも多いって言ってたし、物は少ない方が楽か。
買い物の荷物を渡すと、遼はそれを流しの側のダイニングテーブルに置いた。
コートを脱ぐと、冷えた室温にブルリと震えて慌ててエアコンの電源を入れる。
「ごめんね、ソファーとか無くって。クッションかベッドに座って待っててくれる?」
俺が脱いだコートを受け取って、すぐにハンガーに掛けラックに吊るした。
テレビ観てて良いからね、とリモコンを渡すと、自分は冷蔵庫を開けて片付けを始める。
2つ転がる色違い、白と黒のクッション。
白が遼で、黒が父親ってとこか。
ベッドは、寒色ブルーのロングサイズと、少し離れたところに若葉みてェな明るい緑のシングルサイズ。
間違いなく緑が遼のベッドだろう。
「いや、うちも和室ばっかでソファーねーし。それより、悪ィんだけどシャワー借りていいか?」
「いいよ。今タオル出すね。寒いし、お湯張ろうか?」
「いや、ガスだけ頼めるか」
着替える前に一度シャワーで汗を流すことは、物心つく前から母親に躾けられてて、自分でももう癖になっている。
決して潔癖症じゃないが、外出着を脱いでそのまま着流しに着替えると、今じゃ気持ち悪く感じる。
戻ってきた遼に礼を伝えて、襦袢と長着と帯を持って風呂場へ向かった。
こういうワンルームのマンションは風呂トイレ同室が主流なのかと思ってたが、ここの風呂場は独立してて、脱衣所に洗濯機置き場や洗面台が付いている。
遼の出してくれたバスタオルの下に着替えを置いて、浴室に入ると、ヒンヤリとした感触を危惧していた床がほんのりと温かかった。
見ると、水分で湿っている。
アイツ、お湯撒いて風呂の床温めておいたのか……?
「出来たヨメだな」
一つ吹き出して、シャワーコックを捻る。
出てきたシャワーの温度も、適温に設定されていた。
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