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第84話 昔話1

【斗織Side】 「遼司に、友達はいるかな?」 昔話を、と言った矢先、質問をされる。 『いる』とだけ答えた方が安心はさせられるのかもしれない。 だが、彼の聞きたい答えはそうじゃない。真実…なんだろう。 勝手な勘違いかも知れないが、その表情に勝手に考えを巡らし、「今は居ます」と答えた。 「本当に?」 聖一郎さんは、心底驚いたらしかった。 遼自体は、暗かったりガラが悪かったりと話し掛けづらいタイプではない。 フワフワとしていて掴みどころはないが、話しかけられれば応じるし、愛想笑いもする。俺たちの前では、嘘じゃない、本物の笑顔だって見せる。 人当たりが良く、友達を作ろうとすれば簡単に出来そうなタイプだ。 中山は兎も角、級長とは普通に仲が良さそうだし、マメともすぐに打ち解けた。 まあ、妙な勘違いをして一人で気まずくなっちゃあいたが。 「俺と付き合うまでは、特定の人間と仲良くする気は無かったみたいですけど、今は両隣の席の奴と、俺の幼馴染と、良く5人でつるんでます」 「じゃあ、斗織君のお蔭だ。……克服できたのかな?」 克服…とは、穏やかじゃねェな。 トラウマでもあるんだろうか? 寝顔を振り向けば、その手がパタパタと何かを探すように動いていた。 「とー…るぅ…」 俺のこと探してんのか? 「遼、俺ならここにいる」 手を取ると、ぎゅっと握り返された。 寝ぼけていたのか、遼はフッと口元に笑みを浮かべると、安心したようにまた深い眠りに落ちていく。 頭を一撫で、手を布団の中に入れてやってから、身体を元に戻した。 「遼司は本当に、斗織君のことが好きなんだね」 聖一郎さんがあんまり優しい顔をしてそんなことを言うから面食らう。 「いや、そんなこと…」 当たり前だが、遼は俺より聖一郎さんのことが好きなんだろうと思う。 あのテンションの上げっぷりがその証拠だ。 「初めは、一体この子は何を始めたんだろうと思った。自分の分と、僕の分、それからもう1つお弁当を用意して、彼女が出来たのかと訊けば、彼氏だなんて答えるんだよ。そりゃあ、親としては複雑だよね。 僕が離婚をしているから、その所為で女の子とは付き合えなくなったのかもって、心配もした。けどね…」 低い声に、柔らかい口調。 ああ、これは甘えたな遼が懐く筈だ。 俺はとてもじゃないが人懐こい部類じゃない。 それでもこの人が喋るのを聞いていると、心地良くてつい身を任せたくなる。 「だけど、遼司がすぐに別れるなんて言うもんだから。……相手は男の子と分かっていたのに、それでも少しでも長く続けばいいだなんて、願ってしまった」 聖一郎さんは、言葉を一旦切って、俺の頭をくしゃりと撫でた。 「その相手が君で、今とても安心してる。嬉しいよ」 誰かに撫でられるのなんか思い出せないほど遠くの記憶で、スゲェ気まずい。 けど、不思議と気まずさよりも嬉しさの方が大きくこみ上げていて、俺は自分でも気付かず笑みを浮かべていた。 「あんなにはしゃいでいる遼司を見たのは、久し振りだったよ。もう、年単位でね」 「それは、聖一郎さんが今日は早く帰れるって言ったから…」 「確かに毎日遅いけど、仕事が休みの日はずっと遼司と一緒だよ。だから、僕の力じゃない」 俺の言葉に首を横に振ると、何故か普段の学校での様子を訊いてくる。 同じクラスだというのに付き合う前のことは余り知らないから、素っ気なくて誰とも親密にはなろうとしなかったことを伝える。 付き合った後は、そうだな……。 「…ああ」 そう言えば、と思い当たる。 「今日ほどじゃ無いにしても、いつもテンションは高かった気がします」 答えると、聖一郎さんは自慢げな顔をして、ほらね、と笑みを零した。

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