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第85話 昔話2
【斗織Side】
そうか…。遼のテンションは、俺が上げてたのか……
ニヤけそうになる顔を、必死に引き締める。
じゃあ、聖一郎さん相手に走り回ってたのも、俺が居て、はしゃいでたから………
ゲンキンなもので、ベッドで気持ちよさそうに寝息を立てる遼の、その爪先から頭の天辺、髪の先までも愛しく想えるようになる。
もっとちゃんと、おやすみのキスしてやるんだったな。
起きたら何を言われる前に、おはようを告げてキスをしよう。
「斗織君……」
聖一郎さんは俺の名前を静かに呼ぶと、湛える笑みを深くした。
「ありがとう」
もう一度、頭を優しく撫でられる。
遼司の頭も最近撫でてなかったな、なんて冗談交じりに笑う。
「いえ。俺の方こそ、認めて頂いてありがとうございます!」
夜中だから小声で、けど気持ちだけはさんざ込めて頭を下げる。
「あ、でもまだ学生なんだから、節度のある交際を心掛けるように」
優しい目をしたまま厳しいことを言う恋人の父親に、俺は心から感謝して、でもそれは守れっかな…と頭の中で自分の理性と相談をした。
「それで、その、…昔話を」
うっかり寝に向かおうとする聖一郎さんを慌てて引き留めて、話を催促する。
「ああ、そうだったね。ごめんごめん」
さすが、遼の父親。
接すれば接するほど、納得する部分がボロボロと出てくる。
「あのね、遼司には昔、とても仲の良い幼馴染がいたんだよ。保育園からずっと一緒だった子がね」
保育園からか。俺とマメとの付き合いよりも古い。
「今、は…?」
いた、と言うことは今は居ないんだろう。
付き合いの古い、ずっと一緒だった相手がどうにも気になって急かしてしまうと、聖一郎さんは少しだけ可笑しそうに小さく笑った。
「今はね、わからないんだ。と言うのも、僕たちが引っ越してしまったから」
今の聖一郎さんの転勤人生が始まったのは、遼が小5の10月のこと。それまでは、本社勤めで家族で都内に住んでいたらしい。
引っ越すことが決まった時、遼は部屋に戻った後一人隠れて泣いていたそうだ。
その相手とは、暫くメール交換が続いていた。
相手からメールが届くと、仕事から帰ってきた聖一郎さんにはしゃいで内容を伝えた。
父親とのツーショ写真を添付したり、今日は何をして遊んだだとか。
他愛のない内容だが、そのやり取りは日課になっていた。
その頃の遼は社交的で、新しい学校でもすぐに友達が出来たと言う。
突然、相手からのメールが途切れたのは、中学校に上がってしばらく経った頃だった。
遼は返信が来ずとも何度もメールを送っていたが、一向に戻ってこない返事に、やがて諦めを覚えた。
───離れ離れでも、俺たちずっと友達だからな!
言葉にしたときは、確かに本気だったのだろう。
けれど、中学校と言う新しい環境に、古くからの友達、傍にいる意味………
何かあったのかもしれない、連絡を取ろうと言った聖一郎さんに、遼は困ったように笑って首を横に振った。
「いいんだ。だって会えない俺より、今の生活の方が大切でしょ?面倒くさいって思われたくない」
そんな風に涙を堪えるから、それ以上何も言えなかった。
そして、4月に転校する年は続き、遼は友達を作ることをやめた。
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