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第86話 昔話3
【斗織Side】
だから俺とも3月で終わりだと言ったのか。
離れれば忘れてしまうから、居ない生活に慣れてしまうから、やがては要らなくなってしまうから……。傍にいる間だけ付き合おうと。
だから、3ヶ月で別れる男と妙な噂の立ってた俺と、付き合おうと思ったのか。
「態 と友達を作らないようにしてきたんだろうね、遼司は。
分かっていても、皆と仲良くしなさいなんて、言えなかったんだ。大人の都合でまた転校させてしまうのに、友達を作りなさいなんて……言っても言わなくても、それはやっぱり親のエゴなんだろうけれど」
例え友達を作りなさいと言ったところで、遼は聖一郎さんを心配させないように言うことを聞くんだろうけど、やっぱりそれは、1年限りの偽りの友達で。
けど、今の5人でいる時の遼が、無理やり作った偽りの友達として関わっているようには見えない。
寝ぼけながら俺を探すのもそうだろうし、自分が認められてないんじゃないか、邪魔なんじゃないかって気にして悩んでたのは、絶対に演技なんかじゃない。
「俺たちは、……いや、俺は違うけど、アイツらは遼の友達です」
マメも、級長も、ちょい抵抗あるが仕方ねェ、中山も。
3人とも───中山は限りなく黒に近い…いや、真っ黒に違いないが───遼のことを友達だと思ってる。
遼さえ認めていれば、間違いなく友達だ。
「それに俺は、3月で───たった3ヶ月で遼と別れるなんて御免です。遼が俺のことを忘れようとしても、捨てられないよう努力しますよ」
こっちはやっと本気になれる奴を見つけたんだ。
間違いなく両想いだってのに、簡単に諦められっかよ。
逃げようとしたって、逃がしてなんかやるもんか。
「……遼司は、忘れないよ」
聖一郎さんの言葉は、俺を示したものじゃないのかもしれない。
それでも、
「……ありがとう」
涙を零すのを堪えてるような瞳が見つめる先には、俺がいるから。
任せてください!つーのは、ちょっと違うか。
幸せにします。じゃ気が早すぎる。
「遼が好きです」
だから俺は、俺の気持ちを聖一郎さんに伝える。
「他の奴になんか取られたくねェし、ぜってェ渡さねー。遼のことが好きで堪んねェ」
自分の言葉で、そう伝える。
「俺、普段は口調も荒いし、まだ付き合って1週間も経ってないから信用に値しないかもしんねェですけど、遼のこと、大切にしたいです」
「うん。時間は関係ないよ」
自嘲気味に笑った聖一郎さんは、自分と遼の母親が中学からの付き合いなのだと教えてくれた。
「なのに、すんなり捨てられちゃったしね。それに僕の両親は、出逢ってその日に結婚を決意して、今だに新婚みたいに仲が良い。時間じゃなくて、相性……うぅ~ん、一体何が起因なんだろうね」
難しいね、と笑いかけられる。
捨てられた、と言う。
聖一郎さんもきっと、大切にしたかったんだろう。
だけど、
届かなかったのか……
遼のように、のらりくらりと交わすのが巧い母親なのか。
「………とぉ…る……?」
小さな呼び声が聞こえた。
「そろそろ僕たちも休もうか」
聖一郎さんが照明のリモコンを手にして促してくるから、はい、と頷いた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
俺がベッドに入ったのを確認してから、灯りが消える。
温かい遼の体を抱きしめて、音が立たないようゆっくりとキスを落とした。
眠ったままで、抱き返してくる腕。
腕の中で遼が、ふにゃりと笑ったような気がした。
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