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第97話 嬉しい
のし掛かってきた斗織が、頬をスリって擦り付けてくる。
かわいい…
胸がきゅんって、愛しさが溢れて、その背中に手を回してギュッと強く抱き締めた。
心臓がドクドク言ってる。
俺の為にいっぱい動いてくれたんだよね。…ありがとう。
「えへへ、きもちよかったねぇ」
俺からも頬を擦り寄せると、まだ中にいる斗織の一部がピクリと反応した。
「ぁん、もうムリだってばぁ」
「なら、煽んな」
「斗織だってムリだろー。ゼエゼエしてるもん」
「俺は、まだ、イケる、……っフゥー」
まだイケるって、そんな息切れさせて。見栄っ張りだなぁ…、かわいい。
俺で感じてくれたのが嬉しい。
俺の中でイッてくれたのが嬉しい。
俺の中にまだ居てくれるのが嬉しい。
それからね、抱き締めてくれてんのも、
愛しそうにほっぺにちゅっちゅってしてくれんのも、
労るように腰をさすってくれてんのも、
斗織が俺のために与えてくれるものは、ぜんぶぜんぶ嬉しい。
嬉しいよ。
でもその嬉しさの陰に、終わった途端にほっぽり出されなくてよかったとか、俺の───男の躰でもちゃんと満足させられたよね?とか、何処かホッとしてる自分がいる。
「ねえ、朝ごはん何食べたい?」
背中をやんわりと撫でながら訊ねる。
「まだいいや」
ズズッと腰を引き抜かれると、なんだかすっごく淋しくなって、脚を斗織の腰に絡み付けた。
「…だから煽んなって」
呆れたように笑うと身体を回転させて、胸の上に俺を抱き上げる。
「昼まで…このまんまでいいだろ」
ぶっきらぼうに目を逸らして言うけど、それってさ……お昼ごはんまでずっと、俺とイチャイチャしてたいってこと?
まったりと、しあわせ満喫してたいって、そういうこと?
「昼飯は、俺がなんとかするし」
「斗織、ご飯作れるの?」
「いや、普段はやんねェけど、なんとかなんじゃねーの?それか、コンビニ行ってくっし」
「俺、作るよ?」
「お前は横になってろ」
お尻を軽くペチンって叩かれた。
「腰に相当負担掛かってると思うぞ。無理しないでおとなしくしてろ」
「……はい」
叩いた掌で今度は優しく撫ぜられて、胸に頬を摺り寄せて答える。
「ああ、けどシャワー浴びて服着替えねェと風邪ひくな」
「あ、そうだね」
「ローション出しとかねェと腹壊すらしいし、とりあえず風呂、行くか」
斗織が起き上がろうと腕を突いたと同時に、スマホがLimeメッセの受信を知らせる電子音を鳴らした。
「父さんかな?」
スマホを手繰り寄せると、斗織が下で「ヤベェ…」って小さく呟く。
「聖一郎さんに、節度ある付き合いをって言われたの忘れてた…」
俺のいない間になんの話してるんだ、2人で。
だけど受信は、父さんからじゃなく、心のお兄ちゃんからだった。
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