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第62話 番外編 四年後の秋
この話は、本編終了から四年後になります。
本編でのネタバレを含みます。ご注意ください。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
玄関扉を引いて、「こんばんわ」と声をかける。
すると奥から「おー、入って入って」という威勢のいい返事が聞こえてきた。
声だけで本人は出てこないので、勝手知ったる他人の家とばかりに革靴を脱いで中に入る。
「おじゃまします」
ことわりながら居間の扉をあけると、この家の住人である的野が台所からひょこっと顔を出した。
「おおー。今日はスーツを着てるんか」
栗色の髪を揺らし、目を輝かせてこちらを見てくる恋人に、雪史は恥ずかしくなって肩をすくめた。
「研修だったんだ。だからこの恰好で出社したんだよ」
「めっちゃ似合っとる。写真撮っていい?」
的野が台所に引き返し、スマホを手に戻ってくる。
「いや、いいよ。恥ずかしいから」
「けど、ユキのスーツ姿、入社式以来やん」
スマホを掲げると、照れる雪史を何枚か写真に収めた。
「背景がうちの居間ってのがまたいいな」
撮った画像を確認して嬉しそうにする。
「よし。これ待ち受けにしよ」
「やめてー」
雪史も的野のスマホを覗きこんだ。そこには二十三歳になった社会人の自分が映っている。
「うう。似合ってない」
いつまでたっても童顔なので、背広に着られている感があった。
「そんなことない。大人っぽくて恰好いいよすごく」
そう言う的野は、トレーナーにイージーパンツという恰好だ。勤め先から帰ってきて風呂に入ったらしい。ほんのりシャンプーの香りもする。
「一緒の写真も撮ろ」
的野はスマホを持った手を持ちあげ、もう一方の手を雪史の肩に回した。
ふたりで顔をよせて自撮りする。カシャリと音がして、アップの笑顔がふたつ画面におさまった。
「なかなかええやん」
「的野はホント撮るのうまいね。それ、おれにも送って」
「おっけ」
雪史はこの春、大学を卒業して地元のIT企業に就職した。
社会人になって七ヶ月、やっと仕事にも慣れてきたころだ。的野のほうは相変わらず親戚の経営する工務店で働いている。仕事終わりにこうやって落ちあい、夕食を一緒に食べたり喋ったりしてすごすのも、もう四年目になる。
幼なじみだった的野と大学一年の時に再会し、色々あってつきあうことになって、小さな喧嘩をしたり仲直りをしたり、休みには遠出をしたりして、なんだかんだと今も関係は続いていた。
「ユキ、明日の土曜日、休みやろ」
「うん。そうだけど」
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