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第4話

「……ありがと」  小さな細い身体を抱きしめて、園子の心づかいに感謝すると、亡くした母との思い出もよみがえってきて、雪史は我慢できず目に涙をためていた。  幸せだった幼少期と、その後の孤独で寂しかった日々が思いだされ、つい気持ちがゆるんでぽろぽろと泣きだすと、園子はとんとんと慰めるように背中を叩いてきた。 「ここで、また新しい思い出を作っていけばいいわよ」 「……うん」  そうやってしばしふたりで寂しさを静かにわけあっていたら、穏やかな空気を乱すように、突然、階下から大きな声が響いてきた。 「杉山(すぎやま)さぁーん、入ってもいいですかあ。片づけとクロスの仕上がり点検を、監督がしたいそうなんですけどぉー」  ドスドスと階段を駆けあがる音がしたかと思ったら、あいたドアから、ひとりの作業着の青年が「えっと、ここかな?」と言いながらひょこっと顔をだした。 「……えっ」  しっかりと抱きあっているふたりをみて、目を丸くする。  顔をあげた雪史は、その闖入者とばっちり視線があってしまった。  こっちは涙ぼろぼろで、目も鼻も真っ赤になっている。そうして祖母の小さな身体にひっしと抱きついている。  それを見た相手は口をあけたまま、ぽかんとした表情で固まった。  言葉もなく、お互いに見つめあってしまう。  うすいブルーの作業着に、明るい栗色のウエーブした髪。大きな瞳は切れ長で、目鼻立ちは整っているが、口元には愛嬌がある。  『あ』の字で間抜けにあいているせいだ。 「あ……。えっと……、もしかして、ヤバかった?」  園子が振りむいて、相手を確認した。 「あらら、お兄さん。ごめんなさいね。ええっとね、こちらがいつも話していた孫なの」  鼻をぐすんと言わせながら、園子が離れていく。雪史は腕を伸ばしたままの格好で残された。 「あ。そうだったんだ」  青年は笑顔になって、こちらに視線を戻す。ちょっと考えこむようにしてから、たずねてきた。 「……加佐井?」  うかがうように、首を傾げてみせる。  目の前にいるのは、さっきから列車の中で、ずっと眺めていた古い友人だった。

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