5 / 66

第5話

 ◇◇◇ 「クロスの仕上がりはこれでいいと思いますよ。きれいにできあがってます。電灯は明日、届くんですか。取りつけはお手伝いしますから、その時は言ってくださいね」  現場監督と青年、それから園子が部屋の中で話しているのを、雪史は廊下の壁にもたれて聞いていた。まだ目が赤かったから、中に一緒にいるのが恥ずかしかったからだった。  仕上げ点検が終わって、三人がでてくるのを、少し離れた場所から眺める。園子と監督は、喋りながら階段をおりていったが、青年はくるりと踵を返すと、雪史のもとへとやってきた。  思わず瞳を伏せてしまう。それに気づいたのか、相手は雪史から距離を取ったところで立ちどまり、そっと声をかけてきた。 「加佐井?」  名前を呼ばれて、決まり悪く顔をあげる。腫れた目元と鼻の奥が熱を持っていた。 「あーやっぱ、そっかあ。俺のこと覚えてる? 小学校の時、一緒だった、的野好樹(まとのよしき)」 「……うん。覚えてる」  忘れたことなどなかった。 「こっち、戻ってきたんだ。知らんかった。大学進学でやろ?」 「……ん、うん」 「杉山さんから聞いてた。K大なんだってな。めっちゃ頭いいやん」  陽気に話しかけられて、思わずつられて笑顔になる。それに安心したのか、的野もにこっと笑ってきた。 「五年ぶり? 今日からここに住むの? 俺、今リフォームで入ってるから。毎日きてんよ」 「工務店の仕事してんだ」  本当は、SNSを通じて高校卒業後に就職してたのは知っていたけれど、知らない振りをした。 「そそ。的野工務店。親戚の家だからさ、コネ就職ってやつ。まあ、正式入社は四月からだから、今は手伝いと研修ってとこなんだけど」  茶色い髪をふわりと揺らして首を傾げる。人懐っこい笑みは、写真で見ていたのと変わらない。ほほに小さなえくぼができるのも、小学校の時のままだった。  いつもスマホの中だけで眺めていた顔が、目の前にあって、動いていることが信じられなくて、つい雪史は相手をぼうっと見つめてしまっていた。  それに、的野は不思議そうな表情になる。もの問いたげに視線をあわせてきた。

ともだちにシェアしよう!