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第5話
◇◇◇
「クロスの仕上がりはこれでいいと思いますよ。きれいにできあがってます。電灯は明日、届くんですか。取りつけはお手伝いしますから、その時は言ってくださいね」
現場監督と青年、それから園子が部屋の中で話しているのを、雪史は廊下の壁にもたれて聞いていた。まだ目が赤かったから、中に一緒にいるのが恥ずかしかったからだった。
仕上げ点検が終わって、三人がでてくるのを、少し離れた場所から眺める。園子と監督は、喋りながら階段をおりていったが、青年はくるりと踵を返すと、雪史のもとへとやってきた。
思わず瞳を伏せてしまう。それに気づいたのか、相手は雪史から距離を取ったところで立ちどまり、そっと声をかけてきた。
「加佐井?」
名前を呼ばれて、決まり悪く顔をあげる。腫れた目元と鼻の奥が熱を持っていた。
「あーやっぱ、そっかあ。俺のこと覚えてる? 小学校の時、一緒だった、的野好樹 」
「……うん。覚えてる」
忘れたことなどなかった。
「こっち、戻ってきたんだ。知らんかった。大学進学でやろ?」
「……ん、うん」
「杉山さんから聞いてた。K大なんだってな。めっちゃ頭いいやん」
陽気に話しかけられて、思わずつられて笑顔になる。それに安心したのか、的野もにこっと笑ってきた。
「五年ぶり? 今日からここに住むの? 俺、今リフォームで入ってるから。毎日きてんよ」
「工務店の仕事してんだ」
本当は、SNSを通じて高校卒業後に就職してたのは知っていたけれど、知らない振りをした。
「そそ。的野工務店。親戚の家だからさ、コネ就職ってやつ。まあ、正式入社は四月からだから、今は手伝いと研修ってとこなんだけど」
茶色い髪をふわりと揺らして首を傾げる。人懐っこい笑みは、写真で見ていたのと変わらない。ほほに小さなえくぼができるのも、小学校の時のままだった。
いつもスマホの中だけで眺めていた顔が、目の前にあって、動いていることが信じられなくて、つい雪史は相手をぼうっと見つめてしまっていた。
それに、的野は不思議そうな表情になる。もの問いたげに視線をあわせてきた。
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