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第6話

 ハッと我に返った雪史は、顔を赤くして、「ああ、そ、そうなんだ」と慌てて返事をかえした。  的野は目を細めて、笑みを深くした。 「……加佐井にまた会えるなんて。思ってもみなかったなあ」  感慨深げに雪史の姿を眺める。 「そ、そうだね。すごい偶然」  言いながら、けれど本当の所は違っていた。雪史は、的野にもう一度会いたくてこの近くの大学を選んできたのだった。 「おーい、好樹。もう行くぞ。おりてこーい」  一階から呼ばれて、的野は「やべっ」と呟いて階段から下をのぞいた。 「んじゃあ、またな」  振り返って、にっと笑う。ドタドタッと大きな足音をたてて階下へと降りていった。  その場に残された雪史は、ため息をひとつ吐いた。さっきからうるさく飛び跳ね続けている心臓を抑えようと、少しのあいだ息をつめる。  前ぶれもなく本物に出会ってしまった衝撃に、心も身体も混乱しているようだった。

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