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第7話

 ◇◇◇ 「雪ちゃんの部屋のベッドは明日届くんだったわよね。今夜は仏間にお布団ひいといたから。そこで寝てね」 「うん」 「おじいちゃんとお母さんがいる部屋だから寂しくないでしょ。ちょっと怖いかもだけど、私は隣の自分の部屋にいるし」  いたずらっぽく言う園子に、風呂あがりのパジャマ姿の雪史も微笑んだ。  おやすみの挨拶をして、六畳の和室の仏壇まえに用意された客用布団に入る。布団乾燥機をかけてくれたのか、中はふわふわで暖かかった。  北陸の冬は湿気が多くて、天気も悪い日が続く。だから、ときどき母もこうやって布団に乾燥機をかけてくれていたことを思いだした。  薄闇のなかで母と祖父の写真が飾ってある長押を見あげていたら、ぼんやりとここにくるまでのことが頭に浮かんできた。  生まれてから十三歳まで、雪史はこの地で暮らしていた。  小学六年の冬に母が重い病に侵され、その半年後、あっけなく帰らぬ人となった。母の生前から家庭的とは言いがたかった父は、死後二ヶ月足らずで新しい女性を連れてきた。  その人との再婚を決めると、新たな母の頼みで彼女の故郷ちかく、神戸へと転居することにしたのだった。  すべての出来事はあっという間で、悲しみと孤独だけで癒しの時間はなかった。  父よりも十歳も若かった継母は雪史をうとんじて、妹が生まれると、あからさまに厄介者あつかいをし始めた。居場所のない家の中で、雪史は大人しく自分を抑えてすごし、ただ、家を出る日のためだけに勉学にいそしんだ。  思い返せば、関西での五年間は、友人も少なく寂しいだけの日々だったと思う。  布団の中から腕をのばして、枕元においてあったスマホを手にとる。暗い中で電源を入れて、輝き始めた明るい画面に指先をあてた。  ウェブにアクセスして、日課となったSNSへ人差し指をすべらせる。今日は久しぶりに更新したらしく、新しい写真と記事が載せられていた。 『――懐かしい人に、今日は会ったよ』  的野のページには、そう書かれていた。そしてなぜか、現場近くにいたという野良猫の写真。友人たちの 『猫かよ』『猫なの?』という書き込みに布団の中で苦笑した。  懐かしい人って、自分のことなのかな。  的野の記事はいつもとぼけてて、笑いを誘う。この記事に、神戸にいた頃はどれだけ助けられたことか。

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