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第8話

 帰ってこられてよかった。彼のいる場所に。  また笑っている友人を見ることができて、話をすることができて。  的野と離れていた五年間、雪史はいつもネットの中に彼の面影を探していた。  もう本人に会うことは叶わないとあきらめていたから、ただ姿だけでも見たいと、彼とその友人周辺のブログやSNSを暇さえあれば巡回していた。  逢いたくて逢いたくて。ただの友人だったはずの同級生に、どうしてこんなにも逢いたい気持ちがつのるのか。  その理由に気づいたのは、転校して数年たってからだった。 「……」  的野の写真を見ているだけで、ヘンな方向に感情が傾いていく。  友達なのに。同じ男同士なのに。  かぶっていた上掛け布団の下で、頬がいつの間にか火照っていた。  下半身が熱い。足元をすりあわせて、雪史はやってきた生理現象を抑えようとした。  引っ越してきて初日に、こんな風になるなんて。疲れたせいなのか、的野本人に会ってしまったせいなのか。  誰にもいえない身体の変化。当たり前の現象なのに、自分はなぜか的野に反応をする。的野にだけ。  きっと、相手がこのことを知ったら軽蔑するだろう。だからこのことは隠し通さなきゃいけない。これから、ここで生活していくのならば絶対に。  雪史は、どうにかして凝りはじめた熱を拡散しようと腿に力をこめた。  早く眠ってしまおう。そうすれば治まるはずだから。  目をとじて、眠りを誘うようにぎゅっと小さく丸まった。  やがて少しずつ落ち着いてきて、暖かい布団の中で次第にうつらうつらとし始める。  夢見るような心持ちで、明日からの日々に思いを馳せれば、痛みを伴う秘密の片恋さえ甘く変わっていくような気がした。

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