9 / 66

第9話 翌朝

◇◇◇   翌朝、目覚めると、長旅の疲れはとれて、頭もすっきりとしていた。  ずいぶん遅くまで眠っていたらしい。障子を通して射しこむやわらかな陽光は、もう早朝のものではなかった。 「……」  雪史は寝起きのぼんやりとした頭で、明るくなった部屋を見渡した。ゆっくりと上体を起こして、目を瞬かせる。  昨夜、手つかずにしておいた身体の一部が元気に尖っている。夢の中に的野が出てくることはなかったけれど、どうやら朝まで熱は持ち越してしまったらしい。  こればっかりは仕方ないと思いつつ、枕元に置いておいたスマホを手に取った。  時間は九時少し前。寝すぎてしまった。台所付近から、かるい物音が聞こえてくる。園子はもう起きて家事をしているんだろう。  雪史は近くにあったボストンバッグから着がえをとりだすと、朝風呂をもらおうと廊下にでた。  ちょっと寒いけど、シャワーを浴びればきっと身体も落ち着くはずだ。  申し訳なく思いつつ、こっそりと風呂場に続く洗面所のドアをあける。  中に入って、急いでスエットを脱ぎ捨てた。手早くシャワーだけ、と脱衣籠に服を放りこんで裸になる。  どうしても収まりがきかなかったら風呂場でなんとかしよう。恥ずかしいけど、生理現象は自分の意思だけでは制御できないし。  棚から新しいバスタオルをとろうと手をかけたそのとき、廊下のむこうからガヤガヤと騒々しい男たちの声が聞こえてきた。  きっと、リフォームに入っている職人さんたちだろう。今日も工事があるらしい。  忙しない話し声が近づいてくるのに、背を押されるように風呂場のドアに手をかけた。  そのとき、前触れもなく、いきなり洗面所の扉が開けられた。 「ひっ」  反射的に、息を飲むうわずった悲鳴が喉奥からもれてでる。  瀕死の小動物みたいな声音になった。 「えっ、あ、ああっ?」  ええ? とこっちを見て目をみはるのは、作業着姿の同級生だ。  雪史は慌ててバスタオルで前を隠した。けれど、タオルだけじゃ隠し切れない部分もある。  下肢を押さえて腰を引けば、ものすごくみっともない格好になってしまった。 「ああー……。ああ、えっと。……悪い……」  的野はドアの前で固まった。昨日と同じく、不意をつかれて口を開いたまま呆然となる。  こっちも同様に、彫像みたいに動けなくなった。

ともだちにシェアしよう!