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第9話 翌朝
◇◇◇
翌朝、目覚めると、長旅の疲れはとれて、頭もすっきりとしていた。
ずいぶん遅くまで眠っていたらしい。障子を通して射しこむやわらかな陽光は、もう早朝のものではなかった。
「……」
雪史は寝起きのぼんやりとした頭で、明るくなった部屋を見渡した。ゆっくりと上体を起こして、目を瞬かせる。
昨夜、手つかずにしておいた身体の一部が元気に尖っている。夢の中に的野が出てくることはなかったけれど、どうやら朝まで熱は持ち越してしまったらしい。
こればっかりは仕方ないと思いつつ、枕元に置いておいたスマホを手に取った。
時間は九時少し前。寝すぎてしまった。台所付近から、かるい物音が聞こえてくる。園子はもう起きて家事をしているんだろう。
雪史は近くにあったボストンバッグから着がえをとりだすと、朝風呂をもらおうと廊下にでた。
ちょっと寒いけど、シャワーを浴びればきっと身体も落ち着くはずだ。
申し訳なく思いつつ、こっそりと風呂場に続く洗面所のドアをあける。
中に入って、急いでスエットを脱ぎ捨てた。手早くシャワーだけ、と脱衣籠に服を放りこんで裸になる。
どうしても収まりがきかなかったら風呂場でなんとかしよう。恥ずかしいけど、生理現象は自分の意思だけでは制御できないし。
棚から新しいバスタオルをとろうと手をかけたそのとき、廊下のむこうからガヤガヤと騒々しい男たちの声が聞こえてきた。
きっと、リフォームに入っている職人さんたちだろう。今日も工事があるらしい。
忙しない話し声が近づいてくるのに、背を押されるように風呂場のドアに手をかけた。
そのとき、前触れもなく、いきなり洗面所の扉が開けられた。
「ひっ」
反射的に、息を飲むうわずった悲鳴が喉奥からもれてでる。
瀕死の小動物みたいな声音になった。
「えっ、あ、ああっ?」
ええ? とこっちを見て目をみはるのは、作業着姿の同級生だ。
雪史は慌ててバスタオルで前を隠した。けれど、タオルだけじゃ隠し切れない部分もある。
下肢を押さえて腰を引けば、ものすごくみっともない格好になってしまった。
「ああー……。ああ、えっと。……悪い……」
的野はドアの前で固まった。昨日と同じく、不意をつかれて口を開いたまま呆然となる。
こっちも同様に、彫像みたいに動けなくなった。
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