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第10話
「……あ、あのさ、聞いてない? 今日から、風呂場がリフォームだって」
「き、きいて、ない……」
「あ、ああ、そう」
ふたりむきあったまま、お互い視線が外せずに上の空のような会話をする。
的野の後ろから冷たい空気が流れこんできて、雪史は思わずぶるっと身体を震わせた。
それに的野がつられたように肩をひくっと痙攣させた。
「おい、好樹どうした? 何してる。先に洗面台からとり外すぞ早くしろよ」
的野の後ろから野太い声がする。ハッと振り返った的野は、声の相手を力まかせに押し戻した。
「すっ、すいません。ちょ、ちょっと待ってもらえますか。い、いま、家の人が風呂使ってたみたいで」
「ええ? まじか」
的野はちらりと雪史を振り返ると、すぐに廊下にでて音をたてて扉をしめた。
その顔は、困惑で赤らんでいるように見えた。
こっちは反対に蒼白だ。
的野に裸の、しかも恥ずかしい状態になってしまっているところをモロに見られてしまった。
けれど落ちこんでいるヒマはない。廊下を行き来する足音が増えてくる。
雪史はシャワーをあきらめて、急いで服を身につけた。どのみち下半身はとっくに冷めていた。
そっとドアをあけて廊下に顔をだすと、現場監督と思われる人と園子がそこにいた。
「すいません、うちのもんがいきなりドアあけたらしくって」
大柄な男性に、すまなそうに頭をさげられる。
「あ、いえ、大丈夫です。こっちこそ知らなくて」
「けど、杉山さんじゃなくてよかったですよ。好樹のやつ、あんなに慌てて。こっちは女の人が入ってるのかと勘違いしてびっくりしましたよ」
「雪ちゃん、ごめんね。おばあちゃんがちゃんと伝えてなくって。まさか朝からお風呂入るなんて思ってなかったから」
「……う、うん」
「最近の若い子はおしゃれなんで、朝も風呂に入るんですよ。うちの娘もそうですから」
「あらそうなんですか」
監督が園子に説明して、ふたりが話し始めたので、雪史はその場をはなれて仏間へと戻った。
途中、縁側を通ったとき、外で作業をする的野が目に入った。真剣に仕事をしていて、こちらには気づいていない。
的野の横顔を見たとたん、雪史は顔に熱がのぼってきて、また身体が火照ってしまいそうになり、それから逃げるように部屋へと駆けていった。
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