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第12話

「仕事は?」  横に腰をおろした相手にきいてみる。 「いまちょうど、職人さんがバスタブ外してるとこだから。新しいの設置するまでしばらくは大丈夫だろ」  そう言うと、立ちあがってボルト類の入った包みを破く。  腰に下げた工具差しからひょいとドライバーを抜きとり、枠を手にした。 「ここ、持ってて。そっちから留めちゃうから」 「あ、……う、うん」 「ふたりでやりゃ、すぐにできるよ」  流されるようにして、いつのまにか言われた通りに手伝っていた。  てきぱきと仕事をこなす的野は、手馴れていてあっという間にベッドができ上がっていく。 「よし。できあがりっと。んじゃ次は、スチールラックか。こっちはもっと簡単だな」  ベッドを部屋の脇に設置し終えると、今度はラックの組み立てにとりかかった。 「すごいね」 「え? なにが?」  スチールの長い棒に留め具を通していた的野が顔をあげる。 「仕事が手早くて。おれひとりじゃこんなにうまくできなかった」  それに、あったりまえよとばかりに口元を持ちあげた。 「これくらい、ガキの使いだよ。いつも、もっと難しい仕事もさせられてるし」  そうなんだ、と目を瞠れば、こちらをうかがうような興味ありげな視線をむけてくる。 「……加佐井はさ」 「うん?」  何かきかれるのかと、反対側の棒を支えながら見返せば、的野はその表情をじっと観察してきた。 「……なに?」  切れ長の瞳が、真面目な様子になっていたので、思わず瞬きを何度か繰り返す。 「あ、いや。なんつーか」  肩をすくめて、やりかけの作業にもどった。 「昔とあんまりかわってないんだな、って」  ぼそりともらしてくる。  昔と変わらず、要領が悪くてぼんやりしていると言われたのかと思ってしまった。 「的野は変わったよね」  茶色いふわふわした髪に視線を移して、チクリと刺すように言ってみる。それに相手は気にすることもなく笑ってきた。 「中学高校の頃はヤンチャしてたからなあ。その名残りかな。あ、でも今は更正したから」  ドライバーをくるくる回しながら、明るく告げる。  隠すことなく『ヤンチャ』と言ったけれど、雪史は中学時代の的野がどれほど荒れていたのかも知っていた。

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